柚のかくし味 by 柚 |
今回の訪問地は山東省招遠市。金の生産と豊富な温泉、そして春雨が有名な街。青島市から車で2時間はかかる。人口57万人の小都市だが、全国一の金の産地だけあって、市自体はとても裕福。GNPは20%以上の伸びだというから、確かに裕福なはずだ。
Rさんという中国人女子留学生がある日突然、トラックによる交通事故で亡くなった。即死だった。それからの長い時間のことは今でも忘れられない。両親は突然の悲報を信じることができず、また、ショックのあまり寝込んでしまい、遺体引き取りにはお兄さん夫婦が訪れた。その事件が解決し、報告と墓参りにと、そのときとは打って変わった遠い冬の地に向かった。留学生の死ということで、マスコミも取り上げ、それぞれがつらく長い日々を送ったのだった。でも、何よりつらいのはご両親。重い心を抱いて訪れた地で、私達は暖かく迎えられた。しかし、私の顔を見たとたん、お母さんは泣き崩れる。言葉も通じず、慰めの言葉もなく、ただ、抱きしめるばかり。お墓を訪れたときもまだ土盛りだけの墓に取り付いて号泣。花を供え、日本から持って行った、彼女の好きだった森山直太郎の「さくら」のCDをかけ、あの世に持たせるお金を焼く煙があたりに漂った。前日の夜、着いたときは雪が降りしきっていたのだが、翌日は晴れ上がり、墓に行く間、早春の淡く煙る田園地帯は、とても穏やかな情景に包まれていた。
交通事故について、少し書いておきたい。彼女は大学に入学したばかり、バイト先に自転車で向かう途中の事故だった。悪い偶然が重なったのではないかと思う。たぶん、彼女は急いでいた。トラック運転手はいつもの道がとても込んでいるとの無線を受け、急遽別の道を選んだため、この道には不案内であった。いつもは通らない道だったとか。こうして事件は起きた。私は中国では人と自転車が優先だと言う習慣のことを考えた。自転車も人もどこからでも湧き出てくる。車の運転手は実に巧みにその間を縫って運転していく。だが、日本では、車優先。彼女に幾分の油断はなかっただろうか。そんなことを考えても事故が起った前に時間を戻すことは出来ない。泣き崩れる母親の姿が亡くなったRさんの姿に重なった。
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