柚のかくし味 by 柚


2004-12-07 「蒼い記憶」

高橋克彦の『緋い記憶』を読んだ時の、心に深く入り込んできた、記憶というものの美しい恐怖を忘れられなかった。

そして、見つけた、今回の『蒼い記憶』もまた、様々な記憶の不思議に彩られた高橋のその後の短編集である。記憶がよみがえるきっかけは幾つもある。もっともありそうなのが匂いや音である。匂いや音はどうも記憶の襞の奥深くに納められているものらしい。

高橋が紡ぎ出す小説の、不意によみがえってくる記憶は、人を悲しみへと導いてしまう事もある。思い出さないほうがいい記憶というものがあるのだ。

ジッポーのぱちんと閉める音で亡くなった母親の悲しい恋が浮き彫りになる「炎の記憶」や、床屋の鏡によみがえる恐ろしい殺人の記憶など、ミステリー仕立ての作品も多く、やはりスリリングである。

標題の「蒼い記憶」に至ってはね、思い出してしまったために追いつめられていく主人公の絶望的な心理がうまく描かれている。


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