柚のかくし味 by 柚


2004-10-16 江口章子のふるさと

  なにゆえに/うらぶれはてて/故郷へはかへり来し

これは、大分県が生んだ悲劇の女性詩人江口章子が残した唯一の詩集『追分の心』の中の一編「ふるさと」の部分である。

大分県の人と話していて、突然、章子のふるさと大分県西国東郡香々地町にある長崎鼻の海触洞穴を思い出した。その一番大きな洞穴には、石窟寺院があり、石仏が納められている。洞窟内に立つと潮の満ち干によって潮が吹き上げられ、洞内にはまるで仏のつぶやきのように波の音が響くのである。

長崎鼻には、故郷の座敷牢でさびしい死を遂げた北原白秋第二夫人江口章子の詩碑が建っている。章子は、白秋の詩人としての基礎を築いた伴侶であったといわれている人。その波乱の生涯については、原田種夫や田辺聖子の小説に詳しい。

ふるさとに帰りながら、ふるさとから見捨てられ、もっともふるさとから遠い心を抱いて死んでいった章子の心のように、長崎鼻は、寂しい場所である。

詩集『追分の心』が発刊されたのは昭和九年、章子が狂死したのは二十一年、五十九歳のとき。まるでその最期を意識したかのような詩である。この詩はさらに次のように続く。

  いまさらにうらぶれの身の/かえるまじきは/ふるさとと/砂白き浜にしるさむ


2004年
10月
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

侃侃諤諤

2005-08-23
韓国で料理を食べて思った

2005-08-15
戦後60年の節目に

2005-03-22
地震のこと、続報

2005-03-20
地震な一日

2005-02-16
きみに読む物語

2005-01-27
懐かしい写真

2005-01-19
地球の裏側

2005-01-10
成人残念会

2005-01-07
コーヒーとの出会い

2005-01-05
本作りのこと

2004-12-18
ライターでなく、もの書き

2004-12-17
日のあたる道

2004-12-11
『象と耳鳴り』

2004-12-07
「蒼い記憶」

2004-11-23
さいぼう会に参加して

2004-11-18
若竹酒造場にて

2004-10-21
台風とロウソク

2004-10-16
江口章子のふるさと

2004-10-15
運命の足音

2004-09-24
夜からの声

2004-09-13
父は今日も元気

2004-09-03
日韓詩人交流

2004-08-15
お盆の最終日

2004-08-10
原爆が落ちた日に

2. 軽々と生きる

2004-08-08
被爆の街としての長崎

2. 赤の広場で歌うポール

2004-07-23
久々の小倉駅

2004-07-18
自分のなかの核

2004-07-16
田舎の夏が懐かしい

2004-06-30
「永久就職」というまやかし

2004-06-13
リバーサイドは健在なり