柚のかくし味 by 柚 |
最近、いつもより以上にコーヒーに縁のある暮らしをしている。友人の狩野さん、藤原さんとコーヒーに関する本を出すことにしたのだ。
もともと、コーヒー好きではあるけれど、コーヒーとの出会いは、いまの人たちよりもずっと遅い。田舎に育った私は、18才まで、コーヒーというものを飲んだことも香りをかいだこともなかった。
初めてコーヒーを飲んだときのことは、今でもよく覚えている。大学一年生のとき、福岡に出てきた私は、寮で同じ部屋になった友人と町に出かけて喫茶店に入ったのだ。それは今はもうとっくになくなってしまった喫茶店で、確か、純喫茶と書かれていた。
友人がコーヒーといったので、私もすかさずコーヒーといった。もちろん、私は正直にコーヒーを飲むことなど初めてだといった。友人はびっくりして、「あら、私など、高校のときからよく、喫茶店に行ってたわよ」というので、そのことに私はびっくりしたのだった。
たぶん、初めてあのコーヒーの香りに触れた瞬間から、私のコーヒー好きは始まったのだと思う。
でも、だからといって、狩野さんのように、コーヒーにのめりこんでいくということはなかった。
私はたぶん、コーヒーそのものよりも、コーヒーというイメージに惹かれてしまったのである。コーヒーを飲む喫茶店という空間に。
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