柚のかくし味 by 柚 |
題名に惹かれて買った本。恩田陸という人をそんなには知らない。新聞で紹介されていたのを読んだだけだったが、これを読んで謎解きの得意な作家である。
なかでも、「象と耳鳴り」はおもしろかった。象を見ると耳鳴りがするという老婦人の話の話である。そう書くと、とても単純な話のようだが、そうではない。象の話をすると、つらい体験を思い出してしまうのだが、実はそのつらい体験もまた、フィクションなのである。象は死の象徴であり、象の訪れを畏怖を感じながらも待っている。そんな話である。象を待っているのはどうやら彼女だけではなさそうなのだが。
人はいつも何かを待っているもののようである。死を待つとは言いたくも思いたくもないので、死を何かになぞらえる。どうせ待つのなら、死ではなく、別のものを待ちたい。と、いうことだろうか。
『象と耳鳴り』(祥伝社文庫)
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