柚のかくし味 by 柚 |
穏やかで平和に思える国チリは、実はわずか15年ぐらい前までは、とても今のような平安な国ではなかった。社会主義国として出発した1970年からわずか3年後にはクーデターによって軍事政権へと移った。1978年からの10年間は暗黒の時代である。殺害されたり行方不明になった人々は数知れず、国連でも人権侵害問題が論議された。
もちろん、チリという国は、その前のスペイン人と原住民の長い戦争の時代も含めると、他の南米諸国と同様、受難の時代は長く続いた国であることにかわりがない。わずかな滞在期間だったけど、チリという国のそんな歴史的な事実について、たくさんの人々と出会い、考えさせられた。人口は約1500万人、日系人は2000人ほどしかいない。やはりチリは遠い。地球の反対側なのだから。
チリで二枚のCDを買った。山口智子の『手紙の行方』にあったので気になっていた二人の歌手だが、チリの人に代表的な音楽をと聞いたら、一様にみなこの二人をあげた。歌の引用はこの本から。1967年にピストルによって自ら命を絶った「ヴィオレッタ・パラ」と軍事政権によって虐殺された「ヴィクトル・ハラ」。二人の歌は久々に心に響く音楽という気がする。ラテン音楽は何十年も前から好きだったはずなのに、このような心を揺さぶられる歌があったことを長い間忘れていたなんて。ヴィオレッタの有名な歌「人生よありがとう」つまり「Gracias a la Vida」はこんな風に始まる。
人生は私にくれた たくさんのものを
あなたがくれたふたつの瞳ではっきり見分ける
星の光の奥底や 白と黒を
群衆に埋もれる愛するひとを
ヴィクトルの「ピメントの木」すなわち「El Pimiento」の始まりはこうだ。
パンパのど真中 生きているピメントの木
命を支えるのは 太陽と風
チリの風土を感じさせる歌だ。歌詞よりなにより、二人の歌がいい。その伸びやかな響きが。その歌に秘められた哀しく激しい抵抗の。
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