柚のかくし味 by 柚


2004-03-18 『半落ち』を読んで考えた

半落ち(横山 秀夫) 寝込んだおかげで、テレビを見たり本を読んだりという日を過ごした。『半落ち』はちょっと気になっていたので、はじめに読んだ。何人かの人から心底感動したと聞かされていたから。ミステリーファンのわたしとしては、正直、意外性に欠けているという気がした。一つは、妻殺しという犯罪部分よりも最後まで隠し通そうとした空白の二日間に意識を集中させるという、うまい手法にちょっと騙されたかなあという感が強い。確かにアルツハイマーの妻を殺すということには何の疑念も示されない。空白の二日間については、50歳というキーワードがあるので、わたしは早い時期にそのからくりに気付いたが、その伏線に気付かなければ、最後まで謎に引きづられることになるのだろう。二日間の謎が解けたとき、主人公梶が生きようとした理由がわかる仕掛けになっている。

殺されていい理由はあるのか?

この本の成り立ちはやはり男の論理、男の美学である。妻を殺すことの不合理ではなく、自分が生き延びるための意味づけのほうに思いが集中する。人は何故生きるのか、何のために生きるのかといったことを突きつけている。そう見える。しかし、そうだろうか。人は生きなければならないから生きるのであって、相手がたとえアルツハイマーであったとしても、子供が死んだという事実を認識できなくなったからといっても、殺していい、あるいは、殺されていいという理由にはならないのではないか。

なんか、すっきりしない。後味の悪い読後感であった。


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