柚のかくし味 by 柚 |
亀山早苗さんの本をはじめて読んだのは『低温関係』。これは、心の在りどころについて、少し抽象的に書いたものだった。初めてのその本は、人の心の埋められない寂しさを描いてあったけれど、少し物足りないものを感じたことも確かだった。亀山さんが少し遠慮深げだったと言ってもいいのかも知れない。
だが、そのあと、亀山さんの本が次々にWAVE出版から発刊された。『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『不倫の恋で苦しむ女たち』『「妻とはできない」こと』『「夫とはできない」こと』そして『男と女…─セックスをめぐる五つの心理』と立て続けに出版された。
本のスタイルはすべて同じ。数多くの人に取材して、自分の体験を交えながら、それぞれの悩みを明らかにしていく手法である。そこには、とてもあたたかい気持ちが流れていて、亀山さんは、男と女のことも、同じ人は一人もいないこと。どんな場合もその人の心のもち方であり、こうという答えはひとつもないことなど、丁寧にこまやかなタッチで解き明かしていく。
亀山さんは、男の立場にも女の立場にも立つことができる。男と女のどうしても分かりあえない悩みを持っている人は、読んで見る価値があると思う。
その内容よりも何よりも、わたしが興味を引かれたのは、本の作り方だ。これは、亀山さんと、編集の小田明美さんとの合作だといってもいいだろう。
本は素材もだけど、料理の仕方も大事なのだ。読んでいると、亀山さんの筆がのっていく過程が手にとるようにわかる。これは小田さんの快挙だなあと、思った。
ドラマなどをみていて、気になることがある。若い俳優さんなどが、座っている人の前を平気で横切るのである。もちろん、「すみません」とか、断るわけではないし、平気な感じで横切る。たとえば父親が座っている前を娘が横切るとか・・・。わたし的感覚だと、まず、座っている人の後ろを通るべきだし、それが無理なら、「すみません、前を通していただけますか」といって通るべきだろうし。
今の人たちにとって、そんなの、当り前なんだろうか。それとも、そんなことを気にするほうがおかしい?
いつも通る道沿いに、古い家が壊され、新しい家が建った。想像では、お年寄りが亡くなって若い世代になり、古い家を建て替えたということかも知れないなあ、と。そんなに広い敷地ではなくて、どちらかといえば縦長。あたらしく建ったモダンな家は、横幅いっぱいで前が空けてあった。半分は車庫で残り半分は今流行りのガーデニングとかで、花壇でも造るのかなあ、と、漠然と思いながらみていた。
ところがである。ある日、そこには、2台分のコインパーキングができていたのである。コンクリで固められて。家の人は車が止まった間を抜けて玄関に辿りつくというわけだ。大通りに面しているわけではもちろんない。少し入り込んだ住宅街で、近隣のマンション住人やどこかの家を訪ねてくる人を狙ってのことだろうと想像はつく。それから1週間は経ったと思うがいつ通っても車は一台も駐車されていない。相続税対策かも知れないけど、なんともわびしい。
草取りもしなくていいし、じっとしててもお金は入ってくる・・・そんな胸算用でもしていたのか。果たして、どうなのだろう。もちろん、その家の事情などわからないので、勝手なことを言っているのだけど。
拉致被害者家族のことを考え、落ち着かない一日だった。5人の帰国はもちろん、素直によかったと思うが、それにしても、行方不明の人のいる家族にとっては、気の遠くなる日々がまだ依然としてつづきそうだ。世の中には、自分の力だけではどうにもならないことがある。国の違いはいかんともしがたい。外国に出れば、肌で感じる。しかし、一方では、どの国でも、感じのいい人もいれば、気の合わない人もいる。言葉ではない、という気がしてならない。
最近ちょっとおもしろかったこと。会社のある西公園参道沿いは桜並木である。いま、どの木にもたわわにサクランボがなっていて、そのサクランボをカラスがねらって集まっている。彼らの取り方はダイナミックで枝ごと落として、それをつつき、よく熟れた実だけを食べている。道には、食べかすと葉がついた枝が散らばっているのだ。カラスの習性は知っているが、間近で見るとますますカラスが好きになった。
通り沿いにあるローソンが突然消えた。あっという間の出来事である。けっこうはやっていそうに見えたのに。あっけないものだ。ふと、カラスは不吉だという風評を思い出した。カラスがこんなに群れているのを見たのは久々のことだったから。不気味な声と姿がしばらく、壊してなにもなくなった店先を埋めていた。
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