化粧女王を探す長い旅 by 大王 |
イイデスカ。とにかく時間がありません。到着は午後二時。湯布院は閉店する時間が夕方午後五時という設定が多いので、滞在時間三時間のうちに、どこまで回れるか!そこが勝負です。
いいですね、無駄な時間はありませんよ。
帰ったらさっそく資料をまとめて、週末には、試作を作り、来週そうそうの打ち合わせに間に合わせて。。。
お腹が減ったんですけど。ごはん食べる時間はありませんか?
最近、急激に太りはじめて体重が80キロを超えた。この10年間で30キロも増えたことになる。そのことと関係しているのか。このところ、まるでダイニジセイチョウキの中学生のように腹が減るのだ。とにかく、なにしろ腹が減る。巨大な体重を維持するためには、たくさん食べないとならないのだが、そんな時間はあるのだろうか。
時間はありません。
ひいいいいい。
すぐに食べれる蕎麦ならいいですよ。
蕎麦ですね、とほほほ、腹がへるなあ。肉を五キロくらいたべたいものだぜ。おにぎりとか、キムチなべとかでもいいし。
空腹と走るのだけは勘弁してくれないなかあ。汗をかくと腹が減るし、へたばるから走らないような展開だといいなあ。
ノコピイさんは、その間にも着々とスケジュールをたてています。いったい今日は、どこをどう行けばいいのか、すべてはお任せなのですが、時間がないので走る!汗をかく。そういう展開になることだけを願って蕎麦を食べました。
だったのですが、もっと食べたい。お代りはだめですか?だめです。時間がないですから。ここを15分以内で切り上げて次の場所に行きます。いいですね。
えええええー。蕎麦湯はああ?10秒以内で一気のみできればいいですよ。
やけどするよおお。時間がないです。さあ。飲むか飲まないか、五秒以内に決めてください。
蕎麦屋から、湯布院盆地が一望にできる。店の前に立つと、眼下に広がる温泉の湯気が、あちこちにたちのぼり、うっとりするほど優雅なながめです。
それにしてもこの蕎麦屋。蕎麦やさんというイメージと懸け離れていて、店内に光が溢れている。 しかも値段が安いのが驚く。有名な旅館が開業した蕎麦屋なので、ざるが1500円くらいしてもおかしくないと思うのだが、意外に安い。前回、湯布院に一人で来た時に、別な蕎麦屋でたいしてうまくもない蕎麦を食べたときにくらべると、とても心地がよい。
時間があったら、もっとゆっくりと蕎麦を楽しみたいが、予定の時間が来たので、蕎麦湯を一気のみして、席を立ちました。
山椒、七味など五種類の薬味が、ついてきた。どれを選んでもいいのだ。ちょっとうれしい。 つゆも九州の蕎麦屋にありがちな甘めではなく、しっかしと出しがきいた関東風の辛口なのも気に入った。 噛み締めるように、蕎麦を食べ、
時間ですよ。さあ、次に行きましょう!促されて席を立つ。少しお腹にものが入ったので、元気がでる。
しかし、この日、これほどまでに駆け足で湯布院を走ろうとは、誰が思ったのだろうか。体重80キロの我が身が恨めしいのである。
蕎麦屋のそばに、わたくし美術館という建物がありました。自宅を改造したような民家風の内部は、いろいろな展示物に溢れていて、不思議な気持ちにさせてくれます。
いきなり気に入ったのが、『逃亡』です。入り口にあって、逃亡の後ろめたさと怪しさを表現してくれています。素材は段ボールなのか。
それにしても、この絵のタッチ。狙って描いているとしたらかなりの腕だぜ。狙ってないとすれば、無心の人物が放った、無欲の勝利みたいな絵柄です。
逃亡にみとれていると、これまた謎めいた眼鏡をかけた郵便配達の人が脇をすり抜けてゆきました。
湯布院に来た記念に、ぜひ写真を撮らせて下さい。 えー私が記念になりましょうか。
なりますとも!
私は、体重80キロの腹部を郵便配達に押しつけながら、写真を撮りました。うれしいような、勘弁してほしいような曖昧な表情をしているのは、キットと、そのせいです。
顔面になっている壷がいくつかありました。これらの壷を、部屋にたくさんおいていると、寂しくないかもしれないけど、気になって眠れなくなるかもしれません。
この顔壷も、印象的でした。顔は毎日、この美術館で、静かに買われてゆくのを待ち続けているのでしょうか。そんなことは、どうでもいいんだ。壷は、そうつぶやいているようでもあります。
買われてしまうと、ここにいられなくなるぢゃないか。
それもそうだ。
壷と対面している時間的なゆとりがないのが残念でした。ノコピイさんが、遠くから、時間がないのよ。そういって、視線をおくっていたからです。
俺を買ったりするなよ。狐面は、そう叫んでいたので、買う気にはなれなかったけど、あってみる気にはなりました。 幸いなことに、ノコピイさんが、二階にあがってゆきましたので、まだ時間があるんだな。そう理解して、狐面の前にゆくことができたのです。
しかし、気が焦っているし、すでに、ここまで小走りに近い歩きかたで、わたくし美術館の中をあるきまわっているせいで。全身から汗が吹き出して来ます。 気ばかり焦る私の前に、万華鏡を説明するおじさんが現れました。ここの館長のようです。
展示物にあまり脈絡はありません。窓辺に並べてある女性の胴体や、ガラス細工のステンドグラスみたいな作品は、太陽光を背にしてすかしてみるようになっていて、きれいです。
太陽光を意識して作品が配列しているところが、普通の美術館と異なる点でしょうか。
太陽を受けた作品を見ていると、実際以上に存在感が増すものがあり、このおじさんの表情とか、女性の胴体とかはその部類です。
まだ、それほど時間がたってませんよね。 いえ。すでに15分が過ぎていますよ、そろそろ、ここを出て次にゆかなくては。
外は暑いでしょうねえ。 暑いですよ。 残暑厳しい折柄ですよね。 30度はありますね。
ひえー汗びっしょりになるなあ。肥満な肉体がうらめしいぜえ。呼吸をするたびに、ひゅうううううう。ひゅううううう。とへんなすきま風みたいな音が出てしまうんですが、当然、それは僕の意思ではありません。
意思ではなくとも、そういう音がでるんだから仕方ないではありませんか。暑苦しいとかおもわないでほしいです。 思っていませんよ。 狐面の前で、ノコピイさんが笑いました。
けっこう気にしているんですよ。気にしているわりに、汗はだらだら、呼吸は、ひゅうううううううううう。足取りはよたよたで、すきあれば話し掛けて、少しでも休もうとする。
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