化粧女王を探す長い旅 by 大王

2005-06-27 【国家健全化計画2005】6

[国家健全化計画]

 『先輩』

 『なんら?』

 あるとき、芋縄は、鼻声ぶつぶつ男の先輩に尋ねたことがあった。

 採精バキュームのノズルの清掃は、芋縄たち平職員の仕事である。ノズルは1回の刈り込みで多数の犯罪者から吸い取ったとしても、そのまま使い続ける。犯罪者に対して衛生管理は必要がないと、いうわけだ。

 このため、愛宕山刈り込みのように、第一係長が9人もの採精を反復したときも、連続使用したため、ノズルはどろどろずるずるの状態である。

 不衛生このうえない。

 最初に採精されれば、まだ良いが、8人目9人目ともなると、他人の粘液でどろどろ状態なので、吐き気を催すほどに不潔なのだ。それを使われる犯罪者もたまったものではないと思うのだが、逮捕されるかどうかの切迫した状況なので、犯罪者たちは気になるもくそもないのであろうか。

 こんな不衛生な器具で採精される現実を知っていたら、だれも自家用車内での無届性行為(カーエッチ)などしたくはないと思いそうなものだが、世の中はそうは行かないらしい。芋縄たち職員が連日出動するほどなので、世に犯罪の種は尽きないのだ。

 『ノズルは、こうして俺らが磨きあげてますけどね』

 『。。。。』

 『カートリッジの中身は、いったいどこに行くんですか』

 『。。。。』

 『この前、係長がカートリッジあふれるくらい集めていたけど、どうするんでしょう。自分で捨てるのかな』

 鼻声の先輩は、周囲をちらっと見回してから、芋縄をにらみつけた。

 『おまへ。よへいなことに、きょうみほ、もつんらないろ』

 『え?』

 『おれらち、平ろ職員は、ひらなくてもひひ、ということだ』

 カートリッジの行方については、鼻声の先輩は、それ以上語ろうとしなかった。

 国家健全省の中には、謎が多すぎる。係長クラスは超美人の女ばかりだ。課長だけは、芋縄と同じように、決して異性からは興味の対象にされそうにない、超一級のぶ男だったが。。

 『おまへ、妙なこと考えると、犯罪者とおなじように、採精刑務所おくりらろ』

 『はい』

 鼻声の先輩はいつになく、厳しく芋縄をしかった。

 配属1ヶ月で、国家健全推進章の受章が内定した上に、芋縄があの第一係長に、可愛がられているという評判が立っているせいか、鼻声男の気持ちのなかに羨望と嫉妬が入り混じっていたのかもしれなかった。

            (以下次回)

本日のリンク元

2005年
6月
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

侃侃諤諤