化粧女王を探す長い旅 by 大王

2005-06-17 【国家健全化計画2005】4 西区愛宕山刈り込み

[国家健全化計画]

【国家健全化計画】4 西区愛宕山刈り込み

 国家健全省の中での芋縄の仕事を語るうえで、忘れることができないできごとがある。

 「あのときの、あなたはすごかったよ」

 係長は、国家健全推進章を申請する書類を準備しながら、芋縄の顔をうっとりと眺めた。

 係長に見つめられた、このときの陶酔のような時間を、芋縄は生涯忘れないと、そのときに誓っている。

画像の説明

 「自分は、係長に褒められることなら、なんでもしたい。そうして、もう一度、うっとりと眺められながら褒めてもらいたい」

 そんなあからさまな願いを、芋縄はこのとき思い描いた。

 「わたしも必死だったけど、あなたは、もっと必死だった。課長も本部長に褒められたと喜んでいたし、健全推進章授章は確実ね。配属2カ月で手にする職員なんで、今までだれもいないよ」

 「はい、ありがとうございます」

 「あなたって、すごいね」

 「必死だったものですから」

 係長のために。そう言いたいところを芋縄はぐっとがまんした。

 「ねえねえ、お願いがあるんだけど」

 「なんでしょうか」

 「あなたの試用期間は今月いっぱいで終わりよ。だから、別の主査とペア組むのが本当なんだけど、新人が来るまで、あたしとペア組んでいてほしいの。そう課長に希望してくれる?」

 「はい、そりゃもう、喜んで」

 ああー、もう死んでもいい。でも死んだら係長と会えないので、死なない程度にある程度の悲惨な目にあってもいいな。芋縄はそう思った。

 採精バキュームを自在にあやつる係長の手が、今は芋縄の健全推進章の申請書類を作るためにパソコンのキーボードの上をかけめぐっている。

 芋縄の名前を全省に轟かせた、あの日のできごとを記録するために。。。

 6月1日、第1係は、福岡市西区愛宕山駐車場の刈り込みに向かっていた。住民からの通報で、数日前から、数組のアベックが出没し車の中で無届け、無許可行為に及んでいるらしいことが、分かっていた。

 1係は2係と合同で、午後9時、2手に分かれて配備についた。愛宕山山頂駐車場に向かう車道は2カ所しかない。

 それぞれの出口を封鎖して、駐車場でいちゃつくカップルを急襲し、摘発する。

 いつもながらのありふれた刈り込みとなるはずだった。

 しかし、午後8時50分、国家健全推進車両が、するすると前進して、所定の位置に着いたものの、第1係の車両10台のうち2台目の収容車両が道路の入り口のカーブでエンストしたまま動かなくなってしまった。

 先頭の係長と芋縄の車両だけは気がつかずに前進する。

 午後9時、配置についた係長が後続車両が来ていないことに気付いた。

 「無線封鎖解除して。定時に全車が所定位置につけなかったら、刈り込みは中止する。ぶざまな結果だけは避けたいからね」

 芋縄が運転席の無線ロックを解除して、マイクを係長に手渡そうとしたときだった。突然、すでに駐車場に侵入していた、国家健全推進車両が大音量の国家健全音頭を流し始めた。予定時間前だ。

 「あ、どうしたのかしら。まだ9時1分なのに」  その直後から、駐車場にいた車11台が動き始めた。逃走を図るようだ。しかもまずいことに、大部分の車が係長と芋縄の車両しか到着していない北側道路に向かって一斉に走りこんでくる。

 「こっちに来るよ。あっちの道なら2係がいるのにね。こっちは、わたしたちだけよ。芋縄、なんとかするのよ」

 「係長、バキューム持ってますよね」

 「持ってる。予備のカートリッジとバッテリーはトランクの中だけど」

 「それ持って、ここで待っててください。来ます。やつら、すごいスピードだ」

 「どうするの」

 「いいから、降りて」

 芋縄は係長を、車から降ろすと、向かって来る先頭車両めがけて、車を急発進させて、つっこんだ。どどどどどどおおおおおおおおおおんというものすごい衝撃音がした。

        (以下次回)


2005年
6月
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

侃侃諤諤