化粧女王を探す長い旅 by 大王

2003-08-24 竈のある生活の巻

[江戸下町世界]

title0 竈(かまど)はみたことがあっても、そこに火が入っているのをみたことはないでしょう。

 キミさんは、僕を案内しながら、ここの家は、洋暦2003年のいまも実用で使っている。そう自慢するように言いました。

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 実際、竈にお釜がのっていて、御飯を炊いている家が、いまだに、この東京にあるなんて驚きです。

 キミさんの昔ながらの生活ぶりにも驚いているのに、都電で少し来ただけの近くに、いまどき、こんな家があるんですねえ。いったい近ごろの東京はどうなっているんでしょう。

 キミさんは、僕の感動に答えるでもなく、てにした本を読みはじめました。竈のことも、化粧女王のことも、僕は本を読むキミさんに話し掛けるのもためらわれるような気持ちで、キミさんが本から目を話す時をまっていました。

この家に住みたい

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 キミさんは、ひとしきり本を読むと、今度は立ち上がって外にでました。そうして、外から中の僕をみながら、話し掛けるデモ、提案するでも、おこるデモ笑うでもなく、ただじっとこちらをみているので、僕は途方にくれていろりの側にすわっていました。

title3 囲炉裏もある、竈もある、農家のような都会の家。東京にはさまざまな建物があると聞いてはいましたが、これほどの農家は、都会には、ざらにはありません。

 キミさんは再び家の中に入って来て、あがり框に腰をおろしたまま、相変わらず何かを考えているようでした。

縁側で未来を思う

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 わら屋根の。。。

 キミさんの口から言葉が出ました。ワラヤネノ。わらやねの。。。

 短歌のはじまりのような言葉でしたが、いつまでたってもその先は出て来ません。

 ワラヤネノ 軒に座りて紫陽花は。。title5

 僕は勝手にその先を読みました。でも、口には出さなかったのでキミさんには伝わりません。

 キミさんは、縁側にしばらく座り、やがて座敷にやってきて、紫陽花が活けてある花瓶をじっと眺めています。

 アジサイ、紫陽花は、どうしてここに活けてあるのでしょう。 僕はもう、化粧女王のことを忘れてもよかったのです。この時に忘れていれば、紫陽花の花瓶とともに、キミさんの口から、続く歌が、あらわれてくるかもしれませんでした。

 しかし、化粧女王を探すのは、僕の使命でもあり、使命は果たさないとなりませんでした。キミさんと過ごした夏の時間の終わりが、夕暮れとともに急速に近付いていました。


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