化粧女王を探す長い旅 by 大王

2003-08-22 写真師に記念撮影されるの巻

[江戸下町世界]

title0 永遠にお酒を飲んでいるかと思われたキミさんは、いつしか縁側に出て酔いをさましていました。

 化粧女王について、切り出したのは、そのときでした。title1

 キミさん。僕がここにきた理由は知っていますよね。行方不明になった化粧女王をさがしているのです。

 知っていますよ。でも、どうして、いなくなったひとを探さないとならないのでしょう。

 それはそうなのだけど。

 僕は答えに窮しました。縁側に座ったキミさんが、このまま、どんどんどんどん、小さくなってしまって、いつしか、ずっと手が届かなくなる迄、小さく小さくなって、消えてしまうのではないかと不安になりました。

写真師に電話をする

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 その不安は、やがて適中してしまうのですが、この時は、またいつのもキミさんに戻って、僕の隣で、庭の風景を眺めるまでに、元通りに近くに来たのでした。

 今から写真師に電話をすることにしました。

 キミさんは唐突にそう言うと、おそろしく旧式の電話器の受話器を手にしました。title3

 ホントウニその電話は、誰かと話ができるのですか。 できますとも。

 電話器のようだけれども、小学生の時に理科の実験で作ったことがある、糸電話ではないのだろうか。

 イトデンワ?なんですかそれは。キミさんは、そういいながら、電話で誰かと話をはじめました。

 ここはヤマノテなので、ヤマノテ言葉で話さなケればならないので、とても大変でした。キミさんは、後日、そんなことを話していましたが、もちろん、そのときに、そんな悩みをかかえながら電話をしていたなんて、少しもわかりませんでした。

一時間をかけて写真ができた

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 イキマショウ。 キミさんがでかけたのは、何軒かとなりにある、写真館でした。

 旧式な銀判カメラが据え付けてある写場にはいると、写真師がお待ちかねでした。

 やあ。あなたでしたか。おひさしぶりですね。

 キミさんとは旧知の写真師のようでした。

 さて、きょうは、どのような日なのですか。写真師は、記念撮影以外は撮影したくないという人なので、まず、被写体にその質問をぶつけるのだそうです。title5

 化粧女王を探す記念の一日なのでゴザアマス。

 キミさんは妙なアクセントで、理由を説明すると、写真師はおおきくうなずきながら、それはまことにケッコウでございますなあ。

 感動もない仕事師の声で答えました。それからかれこれ一時間、キミさんの姿勢をただしたり、襟元をなおしたり、銀判の設定をやりなおしたりと、キばかり焦る僕の前で、えんえんと撮影を行い。

そうして撮れた写真です

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 ようやく完成したのが、この写真でした。

 僕にはどうみても、ふつうのモノクロ写真にしか見えないのですが、キミさんと写真師には、それが総天然色の写真に見えるようなのです。

 桃色のところが美しいですなあ。濃紺の上着が、よく再現されていますこと。まことに素晴らしい色調にとれたものだ。ほんとうでございますわ。ほほほほ。

 二人で談笑しているのです。


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