柚のかくし味 by 柚


2004-07-16 田舎の夏が懐かしい

暑くなって、植物が弱り始めた。一日中閉め切っているので、空気が動かないせいだろうか。いえ、実は植物だけではない。自分自身も調子がよくなかったので、すぐ近くのクリニックに行って検査を受けた。結局はたいしたことはなく、ただ単に疲れがたまっているということのようだ。体が疲れていて、眠りたいのに、神経は眠ろうとしないという日が続いているので、それが精神を不安定にしているのである。今まで、こんなことはあっただろうか。ちょっとめげた。

最初はこの暑さのせいかとも思った。ねっとりとした暑さは体に悪い。ふるさとの夏が妙に懐かしく、心が落ち着かない。田舎の家は、昔でも夏は確かに暑かった。冷房などなかった時代のこと。風の通る時間と場所と、必ずしも同じではなかったが、午後の時間、一番涼しかったのは、廊下で、階段の踊り場にござを敷いて寝た。

あの頃、熱帯夜なんて言葉はあっただろうか。こんな日が続くと都会暮らしをすることに一抹の寂しさがある。どこででも暮らせると思っていながら、しかも、夏の暑さは平気だ、むしろ暑いほうがいいなどといいながら、田舎の夏を懐かしむなんて。心の弱さが出ているのかもしれない。


2004-07-18 自分のなかの核

久々にふるさとに戻った。田舎は確かに夜になると別世界のように涼しい。

ふるさとといっても正確には、自分の生まれ育った生家はもうとっくにないので、ただ、ふるさとという空気にふれるだけなのだが。そのつど、自分の核になるようなもの、たとえば決して変わることのない自分がそこにあることを実感できるし、心の奥底に秘めたものにいまでも出会うことができる。

子供時代、ほんとうに孤独だった。そんな言葉が適切かどうか、わからないが。座敷のすぐそばを流れる川の小さな水音の響きを聞きながら、眠りにつくまでの時間。生きるということについて考えた。考えることで、自分を形成していった。長い時間を経て、そうして過ごした日々こそが昔もいまもわたしだと思えるようになった。

いまだにそのころの思いを引きずっていることがいいかどうかなんてわからない。しかし、核だけは変わらない。

一人で生きていくすべは、すべてそのときに学んだのだから。


2004-07-23 久々の小倉駅

久々に小倉駅に降り立った。最近、もちろん何度か小倉まで行くことはあったんだけど、西鉄バスのほうが安いので、つい。で、本当に久々にゆっくり小倉駅の中を歩いた。変わりようが著しく、以前の小倉駅とはまったく別のものになってしまった。そんなことをいったら、小倉の人に叱られそうだけど、昔の小倉駅って好きだった。

乗り換えのためによく、走ったなあ。新幹線が走り始めたとき、小倉で在来線に乗り換えることがあって、わずかな待ち時間しかなかったりしたのだ。新幹線の駅を出ると、乗り換えの待ち時間によく、商店街を歩いた。なんかちょっと懐かしく、心が落ち着く町だった。

でも、小倉で乗り換えるようになったのは、ずいぶんあとのことでその前は、いつも折尾で乗り換えていた。折尾もまたいい町だった。あのトンネルを越えたところにある小さな店。

暑い小倉の町を歩きながら、なんだか、昔の懐かしい小倉の駅のことを考えた。今の小倉の駅はまるで知らない町の知らない駅のようだった。


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