柚のかくし味 by 柚 |
日韓詩人交流「海峡を渡るソリ(声)」のイベントが無事終わり、静かな生活が戻ったので、長くご無沙汰だったふるさとに戻り、高齢の父としばらく時間をすごした。97歳。長くは歩けないけど、食事は自分でできる。毎日、新聞を読み、テレビを見て過ごす。少し雨と風のある日。テレビでは、原発事故のニュースの再放送が行われていた。それをみて父は、エネルギーのことを話し始めた。
もっと、風力や太陽光発電を広めて蓄電を考えるべきだと。自然の発するエネルギーの力を馬鹿にしてはいかんというわけだ。ふうん、考えだけはしっかりしているなあと、感心する。そして、塩分や糖分のとりすぎに注意し、健康を考えているという。そこでわたし。「父さん、今更もういいじゃないの。好きな者を食べたいだけ食べたら」「そうはいかん。寝たきりで食べたいものも食べられなくなったら、生きていても仕方がない」
まあ、確かにねえ。もうここまできたら白寿まで、いえ、百歳までは生きてよね、などというと、「みな人のことだと思ってそういう。これで生きるのはなかなか大変なんだぞ」と。口もなかなか達者である。
お盆休みというのに、親孝行も先祖供養もできずに終わってしまった。この間、韓国で日韓詩人アンソロジーの翻訳作業の確認をするために釜山で過ごすことになったのだ。150人ほどの詩を日本の詩は韓国語に韓国語の詩は日本語に訳してもらう。日本語の微妙なニュアンスを理解してもらうのはとても難しい。特に日本の詩は、「読めばなんとなくわかる」では、相手にわかってもらうことができない。けっこういい勉強になった。戻って今日は別のほんの最後の原稿をチェックした。けたたましく忙しかった日々。でも、なんとか落ち着いてきそうだ。8月が終われば。
夕方、精霊流しに向かうのだろう人々に何人も会った。このあたりでは、迎え火と送り火にアシガラを使う。私のふるさとでは、どうだったろう。確かに迎え火と送り火を焚いた。アシガラなどはなかったので、小さな木ぎれだったか。精霊流しは墓からの帰りに蓮の葉を摘んできてそこにお供えを包んで川まで流しに行った。ナスで作った牛、キュウリで作った馬、酸漿、落雁・・・・。そんなことどもを思い浮かべながら、歩いた。やはり、盆はふるさとで迎えるのが一番だろう。
長崎に原爆が落ちたその日、原子力発電所で事故は起こった。その思いがけない符号に暗澹とした気持ちになった。その日、ビアガーデンに集った人としばし、自然の摂理について話した。このところ、起こるいろんなことが、人間の傲慢さに対する自然界からの鉄槌であるかのような気がする、と。
天神に向かうバスの中で出会った若い男性は、不思議な存在感を持っていた。長い髪をひっつめにし、ジーパンは両膝がぱっくり開いて、いた。どうみても、昔懐かしい言葉でいえば、ヒッピーという雰囲気なのである。友人と話す会話が耳にはいり、聞くともなしに聞いてしまった。産大を卒業したのだが、思う仕事がない。それなら、もう一度大学に行こうと猛勉強を始めたという。「私立は高いので、九大に入ることしか考えていない」と。受かるという保証はないが、受かりそうな気がすると、彼はいう。そうか、彼はきっと来春には晴れて九大生になっているだろう。そんな思いをいだかせた。その自由さがいいなあと、ちょっと思ったのだった。こんな風に軽々と生きられる、それもまた今という時代なのだ。
前 | 2015年 10月 |
次 | ||||
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
2005-08-23
韓国で料理を食べて思った
2005-08-15
戦後60年の節目に
2005-03-22
地震のこと、続報
2005-03-20
地震な一日
2005-02-16
きみに読む物語
2005-01-27
懐かしい写真
2005-01-19
地球の裏側
2005-01-10
成人残念会
2005-01-07
コーヒーとの出会い
2005-01-05
本作りのこと
2004-12-18
ライターでなく、もの書き
2004-12-17
日のあたる道
2004-12-11
『象と耳鳴り』
2004-12-07
「蒼い記憶」
2004-11-23
さいぼう会に参加して
2004-11-18
若竹酒造場にて
2004-10-21
台風とロウソク
2004-10-16
江口章子のふるさと
2004-10-15
運命の足音
2004-09-24
夜からの声
2004-09-13
父は今日も元気
2004-09-03
日韓詩人交流
2004-08-15
お盆の最終日
2004-08-10
原爆が落ちた日に
2004-08-08
被爆の街としての長崎
2004-07-23
久々の小倉駅
2004-07-18
自分のなかの核
2004-07-16
田舎の夏が懐かしい
2004-06-30
「永久就職」というまやかし
2004-06-13
リバーサイドは健在なり