化粧女王を探す長い旅 by 大王

2003-12-20 松林は夕暮れの中にの巻

松との対話を終えて

松に語る看護婦

 松の幹に手をあてると、松が考えていることが、心の中にひろがってくるのがわかります。

 松はなんといっているでしょう。キツギさんは、そうたずねてきましたが、僕は松の言葉を聞くことに集中していたので、だまっていました。

 松は、おぼつかない僕のために、ゆっくりと語ってくれました。

 きょうは、海がきれいだったろう。きれいだったろう。

診察するような看護婦さん

 はい。きれいでした。

 よい日に、ここに来たな。

 ありがとうございます。松はいつも、ここで何をしているんですか。

 することはいろいろある。おまえの昔の記憶を幹の内側に刻むこともおれたちの仕事なのだ。

 ええー。なんですかそれは。

 キツギさんは、松に代わり、僕に伝えてくれました。

再び海へ

きれいな海へ

 日没なので、松はもう、私たちに続きを語ることはできないけれど、いいたいことはわかります。

 きょうという一日を過ごした、私たちが、心の中で体験したさまざまなできごとと、よみがえった記憶の すべてを、松たちは、自分の記憶として封印してくれるのです。

 せっかく思い出した廃墟の記憶も、松に吸い取られて消えてしまうというわけなんですか。

 思い出しただけでも、幸運だったというべきでしょう。

さようなら。ありがとう

 キツギさんは、松林を抜けると、再び海岸に出ました。日没していたものの、太陽の残照は、海岸に残っていて、不思議な光とともに、海の色を濃い色にしています。

 風も出てきました。

 きょう一日、何をしたのか、どうして、この海岸にいるのか、僕にはもう、何も思い出すことができませんでした。


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