化粧女王を探す長い旅 by 大王

2003-12-03 モーターが転がるの巻

[廃墟看護婦]

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 プールサイドから脱衣所に入り、そこからホテルに通じる通路に出ました。

 風の音がしますが、小さな日だまりができていて、そこに、モーターが転がっていました。

 誰かが、ホテルの施設を物色して、まだ使えそうなモーターを取り外したものの、持ち去りあぐねて、そのまま転がしていったのでしょうか。

 モーターを見ていると、しんだ魚の内臓をながめているようで、はかない気持ちになってきます。

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 『キツギさん』

 『キツギさん。30年前に、僕はこのホテルで両親と宿泊し、この脱衣所の前にいました』

 僕は、かまわず話を続けました。どうして、この串崎ケープホテルなのか、ここにこなければならなかったのか。確かめたいことがあったからです。

 30年前に、僕は両親と、ここで写真を撮影していたのです。どうして、こんな場所で、ホテルの客室でもなく、ロビーでも、海が見える前庭でもなく、この裏庭のような場所。そこで撮影した写真が、自宅のアルバムにあることをようやく思い出しました。

母親のように立つ

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 モーターの前から、キツギんが崩壊が迫るホテルの付属施設の前に立っていると、30年前と同じ情景を思い出します。

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 ホテル本体に付属する建築物の大部分は、木造モルタルでできていたようです。風雨にさらされて、本体のホテルよりも激しく破損していたのも、その理由からです。

 キツギさんが、こうして立っていると、まるで30年前にここに立って父から撮影されていた母親のようではありませんか。

忘れていた秘密を思い出す

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 だんだん、思い出すことがありました。 まだ、このホテルができたばかりの頃、自家用車で来るしかない、この岬のホテルには、多数の常緑樹が植えられていて、手入れをする職人の数もかなりいました。

 展望浴場からは、海と、夏の山の緑が、強烈な光線をあびて輝いていました。

 展望浴場からの眺望と、プールサイドからの海への視界。現実の光景は、今は廃虚になっていますが、あの時の風景を今でも思い出します。

 僕は、あの夏。体調を壊して長期に学校を休んでいました。その休みの最後の方で、家族は、長期間入院していた僕の気分転換のために、退院からほどなく、復学を前にして、このホテルを訪ねたのでした。

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 そうして、僕は、もうひとつ思い出していました。いままで考えてもみなかったことを。 ホテル本体に付属する建築物の大部分は、木造モルタルでできていたようです。風雨にさらされて、本体のホテルよりも激しく破損していたのも、その理由からです。

 キツギさんの顔をみているうちに、正確にいうと、こうして、ここに導かれて廃虚のホテルに立っているうちに、今迄完全に忘れていたことを思い出したのです。

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