化粧女王を探す長い旅 by 大王

2003-11-28 看護婦ではなく婦人看護師と訪ねる廃虚の記憶の巻

ドウシテモ思い出せないこと

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 あれから30年は過ぎたのですが、毎年、この11月になると、必ず思い出すできごとがありました。

 まだ子供のころの記憶なので、それが現実のことだったのか、それとも夢の中のできごとだったのか。まったくよくわからないのですが、ひとつだけ強烈に覚えている光景があるのです。

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 それは、秋がかなり深まった肌寒い日だったのですが、当時、小学生だった僕が、家族で海岸ぞいのホテルに宿泊した記憶です。

 しかも、それはどう思い出しても平日で、週末や祝日ではなかったのです。なぜ、曖昧な記憶の中で、曜日だけは、平日だったとハっきり覚えているのは、謎なのですが、確かに平日に、海岸ぞいのホテルに泊まったことは間違いありません。

アテニならない人間の記憶

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 この話を始めると、たいていの看護婦さんは、また始まったとばかりに『はいはい。はーいはい。ケンオンしましょう。はーい、何度も聞きましたよ』

 さっぱり相手にしてくれないのですが、一人だけ、僕の夢の記憶を粘り強く聞いてくれる看護婦さん。

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 それが、キツギさんでした。

 今は、『看護婦』さんではなくて、男女共通の職業になったせいでしょうか。看護婦とは呼べなくなり、看護師と呼ぶことになっていますから、女性看護師であったり、婦人看護師なのですが、僕の記憶の中では、キツギさんは、やはり、看護師ではなくて、看護婦なのです。

 だから、いろいろと御批判はアリマショウケレドモ、僕はキツギさんのことを、今もずっと看護婦さん。そう呼ぶことにしています。

壊れた記憶を描いて

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 第一に、あれはどこのなんというホテルだったのでしょう。海岸ぞいにあるホテルなどは、ざらにあります。しかし、夢の中のホテルは、僕の記憶の内部にだけ存在するようなもので、実在しないかもしれないので、探すにも手がかりがありません。

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 キツギ看護婦は、ケンオンで僕の病室に入って来るたびに、僕が、キョウハココマデ思い出しました!小学生時代に僕が両親と宿泊した海岸ぞいのホテルの話を飽きもせずに聞いてくれる点が、ほかの看護婦さんと違っていたのです。

微笑みをありがとう

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 いったい、そのホテルはどこにあったのでしょうね。ケンオンするときに、時間があるから、ケンオンしながら、いっしょに考えてみましょう。 キツギ看護婦は、ケンオンしながら、目をつぶって、僕のためにホテルの場所をあちこち考えてくれるので、僕は、その横がヲをうっとりと眺めているだけで、いつまでたっても、ホテルの場所を思い出すことがなかったのです。

 しかし、キツギ看護婦のケンオンの日が、二日連続で続いたときだったでしょうか。キツギ看護婦の頭の中に描いた、ホテルの光景が、僕の頭にはいってきて、ああ、ここだ、ここです。ここですよ。間違いありません。

 静かに語りかけると、キツギ看護婦は、いつものように、微笑むだけで、そのまま、後ろ姿となり、病室から外にでて、夢の中のホテルの中に溶け込むように入っていくのを、僕は確かにみました。

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