化粧女王を探す長い旅 by 大王

2001-05-27 [思い出]バス停の時間

[思い出]バスを待つ時間

画像の説明画像の説明 バスを待つ楽しみを知りませんか。バス停でずっとバスを待つんです。待っても待ってもバスは来ない。

 いやですよ。バス停に来るか来ないかもしれないバスを待つ時間ほど耐えられない時間はありません。楽しみなんてとんでもない。携帯電話でバスの接近を知るサービスがはじまったとき、やっと不愉快なバス待ち時間が解消される。どんなに喜んだかわかりません。

バスが大好き

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 バスが大好きな私たちにとって、バスに乗るだけでなく、バスをこうして待っている。その時間も楽しみのひとつですよね。バスはちっとも来ない。でも、来るかもしれない。その楽しみを奪うのが、あなたがいま発言したバス接近システムです。許せません。

 ワタシタチ、と言いましたけど、私は含まないでくださいね。私はそれほどバスが好きではありません。バスを待つ時間がとてもイヤだというのはほんとうですし。

 木目さんは、少し失望した表情をした。

バスを思う

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 バスに乗ってここまでやってきたことを忘れてしまったのですか。バスに乗らないと、ここにはこれなかったし、この旅はなかったんですよ。

 静かな口調で言われたので、そうかもしれない。そんなもんだろうなあ。バスはやっぱりいいものだ。

 無責任にも、考えを変えてゆくことに頓着しないような気持ちになっていた。

 木目さんは、もう何も語らなくなっていた。

 木目さん。声をかけたけど、無駄だったので、私はなにもすることがなくじっと時間が経つのを待っていた。木目さん。やがて、バスがやってきた。私と木目さんは、無言でバスに乗り込んだ。

バスを降りる

画像の説明 5つ目のバス停が迫ってきたとき、木目さんは黙って席をたった。

 声をかけてはいけないような気がして、木目さんが席を立ち通路を通って下車する姿を見送った。

 乗客全員が、木目さんの白いコートを見ている。ぼんやりとした視線が木目さんのコートに集まっている。

 木目さん。私は、どうしようかと迷ったまま、席に座り続けたまま、思い出にひたることにした。

 思いでは楽しいですね。木目さんに伝えたかったが、バスの乗客は、だれも未知の他人だったので、そういう感想を口にすることもなかった。


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