化粧女王を探す長い旅 by 大王

2001-05-22 [思い出]

[思い出]屋上発着のバスに乗る

画像の説明画像の説明 福岡市民でもあまり知っている人はいないのですが、ケンチョウアトチノアクロス山の頂上から、土曜日の午後6時から30分おきにバスが出ています。

 頂上に行けるのは、土曜日だけですし、このバスはアクロス山を始発にはしているものの、次の停留所からは一般的な停留所に停車してゆき、博多駅に向かうので、なにもここからわざわざ乗る必要もない。

落下感覚が大好き

画像の説明画像の説明 木目さんは、苦労して頂上にたどり着き、そこから始発のバスに乗って、下に急降下するように降りてゆくことが、たまらなく好きだというのです。

 落下してゆく感じがあるでしょ。あれが好きなんです。

 好きなんです、って言われても、そんな。ジェットコースターにでものれば、落下感覚なんて、くらくらするほど体験できますよ。

博多駅まで15分

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 しかし、落下感覚で地上に出てしまうと、その後は、あたりまえの路線バスになってしまうので、もう、あの感じは体験できません。しかし、あそこから来たんだ。誰も知らないだろうけど。

 せっせと山に登って、そして頂上のバス停から始発バスに乗って、地上に降りてきて、博多駅についたんだ。

 そういう実感のようなものは、誰よりも強いのです。

博多駅地下通路を行く

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 木目さんはそうかもしれませんが、わざわざアクロス山に登山して、そこからバスに乗る、酔狂なことは僕には理解できません。始発をあそこにしたバスr路線があること自体、理解できませんけどね。

 僕は、そういって同感でないことを伝えようとするのですが、木目さんはきっぱりと、こういうのです。

 「あなただって楽しんだでしょう。頂上から始発バスに乗れることが、きっとあなたにとっても、うれしかったはずです。正直に生きましょうよ!」

次々に歩いてゆく

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 通路は不思議なところでした。歩いている人がほとんどいないのです。人がいないのに、こんな広い通路が地下にあるなんて、無意味ではないのか。僕はそう思っていると、木目さんは、僕の心の動きを見抜いたかのように、こういいました。

我が家のように

画像の説明画像の説明 無駄ではありませんよ。私たちがここを今歩いているではないですか。無駄ではない証拠ですよ。

 無駄に歩いているのは私たちではないでしょうか。根源的な指摘をしたのですが、木目さんは答えてくれません。

 やがて。歩き回る木目さんは、地下通路をどんどん先に行くと、途中で地上への階段をみつけて、あがると、そこは建物の内部になっていました。木目さんは自分の部屋のように、そばにある椅子に座りました。

思い出してください

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 ここに、こうやってくつろいでいると、きょうの最初の出発点のことを思い出すでしょう。

 出発点ですか。

 そうですよ。県庁跡地のアクロス山に登り始める直前の自分自身です。それを思い出しませんか。

 思い出すも何も、ほんの1時間も前のできごとですよ。まだ忘れてもいません。

回想する木目さん

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 バスに乗っていた時間を思い出してみましょう。鮮明に思い出すことができます。

 だって40分もたっていないから、思いでもなにも現実のできごとですよ。

 40分も前になったんですよ。過ぎた時間は決して戻ってきません。アクロス山に登って頂上からバスに乗ったことが夢のように懐かしく思い出されることはありませんか。

思い出をかみ締める

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 思い出すまで、瞑想してください。

 思い出したいけど、まだ忘れていません。

 思い出すのです。

 木目さんの言葉を聞いているうちに、ほんとうに思い出すようになってきました。そうだった、アクロス山にのぼる途中で、木目さんに気持ちが悪いといわれたシャツを脱いで、上半身裸のままで、木目さんの後についていったんだった。

 そんなことまで思い出します。

現実よりもうっとりと

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 思い出していると、現実よりもうっとりとしてくるでしょう。たったさっき過ぎたばかりのできごとなのに、今ではすっかりと過去のことになってしまいますよね。

 過去はすべてが美しいではないですか。上半身裸で、お腹を出していたあなたも、思い出の中では、それなりに尊い記憶としてよみがえります。

記憶をたどる

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 そうそう。アクロス山に登っているときのことです。 あなたは、すれ違う人々から、変質者に思われるからイヤだと考えていましたよね。

 当然ですよ。上半身裸で、まるで、木目さんを追っているようなあせった感じで登山していたんですから。

いまとなっては

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 いまとなっては、とても楽しい記憶です。

 そうですね。あそこからバスに乗って、急降下するように地上に降り立ち、そのまま何食わぬ顔で、一般の路線バスのような当たり前さで、街路を走っていたわれわれ。

 とても懐かしいです。どうしてあの一瞬をもっともっと胸に刻まなかったのか、ちょっと後悔しています。


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