化粧女王を探す長い旅 by 大王

2001-05-21 ![思い出]県庁跡地の山

[思い出]県庁跡地

画像の説明画像の説明 県庁がこの場所からなくなって何十年もたつというのに、いまだに県庁跡地っていうと、ああ、そうだね、アクロスがあるところだよね。

 福岡市の人々は、今でもそういう理解の仕方をしているのです。

 ほんとうに県庁があった時代を知らない世代までも、何十年もたってから、この場所に立つときに、ここには本当は、県庁があったって、自覚しながら訪れいていて。

山に登る

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 ケンチョウアトチにいって山に登りましょう。木目さんが、いつもと同じように唐突に提案したとき、僕はもう、3年の間に1度くらいのぼれたら、それでじゅうぶんですので、1年前に上っているし。もうけっこうです。そういって断る道もたしかにありました。

山に登るのか

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 僕の悪い癖は、なにごとも「運命」と思ってしまうことでしょうか。他人の無責任な思いつき出会っても、提案されれば断れない。なぜなら、ここで断っても、それは運命なので逃れることができないのだ。

 そう、考えて受け入れてしまうので、いろいろととんでもないことになってもいる。

木目さん

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 ところで、木目さん。僕は話しかけようとしましたが、いつものように木目さんは、自分自身の世界にはいってしまい、僕の存在を失念したかのように、どんどん山に登ってゆきます。

 しかも、山に登る速度を一定にしてほしいのですが、途中でたちどまって、胸のところについた何かをはらったり、突然たちどまったり、空をみあげたり、さっぱり一定ではないのです。

昆虫が嫌い

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 そこは、福岡市の人々にとっては、その山のことをなんと呼んでいるか知っていますか。

 ケンチョウアトチに建ったアクロス山。

 人々はこう呼んでいます。アクロスという、その建築物の正式名称は、ケンチョウアトチに建った、という修飾語がないと、出てこないのです。

木目さんは言った

画像の説明画像の説明 木目さんは、なんども胸に手をやりながら、独り言のようにいったことを僕は聞き逃しませんでした。

 ワタシ、昆虫が嫌いなのよね。

 コンチュウガキライナンデスカ。ではなぜ山に。

 木目さんに質問しましたが黙殺されました。

話しかけないでください

画像の説明画像の説明 アクロス山は昆虫だらけだといえます。昆虫がぶんぶんしています。蚊もいるでしょうし、ヒメマルカツオブシムシもうようよいます。

 タガメもいるでしょうし、蟷螂にくらいつかれて悶絶して死んでゆく甲虫だっているかもしれない。芋虫は、ほかの虫によってどんどん汁を吸われていますよ。

質問謝絶

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 ちょっと物思いにふけりたいので、ワタシに話しかけないでください。特に気持ちが悪い昆虫の話題は絶対に禁止します。

 昆虫っぽい、そのシャツも脱いでもらえませんか。

 きっぱりといわれたので、僕はお気に入りの茶色の縞々が横に入っている、Tシャツを脱いで、だらしがないお腹がぶよぶよしているわが身をさらしながら、木目さんの後をついていった。

もう着てもいいですか

画像の説明画像の説明 この日は、曇りでちょっと冷える。このままでは風邪をひいてしまうかもしれません。

 木目さん。僕は寒いのですが。シャツをきてもいいですか。

 だめ。山に登っているうちに暖かくなりますから。我慢してください。

全身鳥肌が立つ

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 風も出てきました。この日、通行人も実のところ、たくさんいたのです。すれ違うたびに、木目さんの後を上半身裸でついてゆく僕は、人々から冷たい視線や、軽蔑の視線。そればかりではない。視線を浴びるのはまだずっといいほうでした。

視線がこない

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 すれ違う人々の中には、木目さんがやってくるのを、うっとりと眺めていて、背後にワタシが、上半身ぶよぶよの肉体をさらしているのをみたとたん、ワタシが透明になったように、まるでどこにもいないかのように、視線を合わせないですれ違う人まで出てきました。

やばいですよ。木目さん

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 木目さん、このままでは、僕はアクロス山の登山者から警察に通報されてしまいます。そんなにさっさと歩かないでくださいよ。

 僕がまるで、木目さんを追いかけているようにおもわれるぢゃないですか。通報されたら、僕はどうすればいいのですか。

 せめて、手でもひぱっていてくださいよ。そうしたら、木目さんは、別に僕を怖がってはいないということを周囲にアピールできるので、通報される危険度はぐっとへります。

背後に立つ

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 木目さんは、一切答えず、あいかわらず急ぎ足で登山道をどんどん登ってゆきます。頂上まで行くのですか。シャツを着ていいですか。シャツを着ないと。さむいです。

さぶいぼ

画像の説明画像の説明 さぶいぼや、鳥肌がにょきにょき出ています。お腹も冷たくなってしまい。このままだと確実に風邪を引いてしまいます。

 昆虫のようなシャツを着てきた僕は確かに悪かったです。以後、昆虫柄のシャツは着ません。

そうですねえ

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 答えを期待しないで懇願を続けていると、木目さんは、やっと言葉をかけてくれました。

 お腹が寒いのなら、自分の手をあててごらんなさい。暖かくなるから。

 無理ですよ。僕のお腹は鳥肌がでまくるほど、冷たくなっているんです。お腹が冷えると、トイレにもいきたくなっちまいます。アクロス山には、といれがないんですよ。

次の目的地

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 しかたないですねえ。ワタシのコートを貸しますよ。でも、お腹にぐりぐりかけないでくださいね。あとできるときに、あなたが着ていたかと思うと、かなりいやな気分がしますから。

 それに、次の目的地にもついてきてくださいね。それがコートをお腹にかける。あくまでもちょっとかけるんですよ。その、かけるための条件が、私についてくることです。どこまでも。


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