化粧女王を探す長い旅 by 大王

2001-09-09 [池に帰る]夏の池に帰る日

[池に帰る]

画像の説明 かなり昔のできごとになってしまったけれども、その夏のことは、今でもそっと思い出すことがある。

画像の説明 どういうときに思い出すかというと、ちょっととりとめがないのだが、こういうときだ。

 学校の帰り道に遠回りをして川の土手を歩いて帰るときとか、水田の中にわざわざはいりこんで、そのあぜ道をゆくとか。

 土の道の上を無意味に歩いているとき。そういえば、あの夏もそうだったなあ。思い出しては、空の色がどんなだったのか。蓮の葉がしげっていたのか。

池の水面を思い出す

画像の説明 そういう、土の上を歩いているときに、かならずといっていいほど、あの池の水面を同時に思い出してしまうのだ。

 あれから何年もたつけれど、あのときみたいな暑い夏には出会っていないようなきもする。

画像の説明 「私の池にキマセンカ?」 そういわれたとき、部屋でもなく場所でもなく、近くでもなく、私の池?池ってみずがたまっている池?

 「池っていけですか。水がたまっている?」

 そんな確認をしたことを覚えている。池を所有していらっしゃるんですか。池を。亀とか蓮の葉とかが生えている池を???

 さっぱり理解を超えたことだったので、自問しながらも質問するのは最小限にしていて、それでも、なんだかどきどきして質問を重ねていた。

 「池ですか」 「ソウデスヨ」

池のほとりを歩く

画像の説明 池は思いがけず近くに出現したので、よけいにびっくりした。

 商店街からすぐのところに路地のような舗装されていない通路があり、商店と商店のすきまのような通路なのだが。そこを抜けると、いきなり池になっていた。

画像の説明 「こんなところに池があるんですねえ」

 あまりの唐突さに驚きを隠せなかった。道はこれで終わりではありませんよ。

 「オワリデハアリマセンヨ」

 ずっとずっと続いているのです。池に沿っての道を案内しましょう。

 なるほど、池の周囲にはどこまでもどこまでも、道が続いていていったいどこまで池のふちが広がっているのかよくわからないほどに、続いていた。

 遠近法で描かれた池のほとりの道が、夏の日差しに照りつけられて、歩くと汗が出てきそうだ。

 「暑いですか?」 「暑いです。倒れそうです」

 「根性がタラナイカラデスヨ。そんなことではイケニワラワレマス」

 あえぐ私をあざけるように、すたすたを先を歩いてゆくので、いったい何者でどんな顔をしているのか、さっぱりわからない。わからないことだらけなので、いまもって誰だったのか思い出さないというわけなのだ。


2001-09-10 [池に帰る]

道は続く

画像の説明 いったいどこまで歩くのですか。

 池の周囲は大変に広くて、果てがありませんでした。夏の日差しがかんかんに照り付けているので、頭はくらくら、目はぎらぎらしてしまい、まるで砂漠の中を歩いているようです。

 なんておおげさな。

画像の説明 とにかく、遅れないようについてきてください。

 私は、炎天下にぶっ倒れそうになる、心もとない状態のままで、あとを懸命についてゆこうとしました。

 和服で、草履で歩きにくいのに、よくまあ、すたすた歩けるものですね。中はば感心しながら、ふうふう下をむいたままで、どこにゆくかもわからないままついていったのです。

カンナが咲いている

画像の説明 ああ、カンナだ。カンナが咲いていますよ。ほら、こんなに。

画像の説明 だめですよ。休もうとおもってカンナなんかに注意をゆかせようとしても、歩く速度を緩めたがさいご、最初の場所には戻れなくなるんですよ。

 ええー。立ち止まってしまいましたけど、どうすればいいんですか。

 少し戻れなくなっただけです。いまなら間に合います。

緑に埋もれた池

画像の説明 池は、私たちのすぐそばに水をたたえているはずなのですが、夏草が覆っているので、ちっとも水面がみえません。

画像の説明 池がなければ、ただの緑の荒地のようなのですが、水を感じさせる空気があたりに充満していました。

 遠くからはるばるとやってきた旅の果てのような気持ちになってきました。

 池の道は、どこまで続くのでしょうか。もう。何年も前のことなので、よく覚えていないのですが、その入り口のことだけは、今でもはっきりと思い出すことができるのです。


2001-09-11 ![池に帰る]

[池に帰る]

画像の説明 延々と続く池の周囲の道を抜けるとやっと、池でない場所についた。美容院がある、古い木造家屋がならぶいっかっくなのだが。

画像の説明 そこからも池の気配がただよってくる。

 「このあたりいったいは池だらけだったんですよ。私のアパートも池のすぐそばにあります」

 池の周囲にこんなに家屋が立ち並んでいるのに誰も池を気にした生活をしていないのは、とても不自然です。

池のほとりに

画像の説明 池がこんなに近くにあって、こわくはありませんか。

 いいえ。

 だってこわいではないですか。帰宅が遅くなり、さっきの池のほとりを歩いていて、なにかにひきずりこまれたらどうするんです。

画像の説明 亀もたくさんいましたよ。池の中に亀がぎっしりいたら、どうなるんですか。好き好きに食いちぎられて人知れず亀のえさになるかもしれません。

 酔って帰宅するときなどは要注意ですよ。

寺院もある

画像の説明 池を通過場所には寺院がありました。

 ここにはお寺もあるんですよ。池の向こう側の人たちには知らない世界が広がっているのです。

 古い木造家屋と寺院ですか。時間がとまったような場所なんですね。

画像の説明 そうですね。池があるから、ここまでは、新しい町が押し寄せてこないですんだんです。

 でも、不便でしょう。毎日草履で通勤しているんですか。池のほとりを通って。雨の日はどうしますか。

 雨の日は傘がありますから。

 ずぶぬれになってもいいということですか。

 傘でしのげるので、それでいいということです。

 相変わらずなぞのような言葉を残して、寺の中にどんどん入ってゆくのでした。


2001年
9月
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30

侃侃諤諤