化粧女王を探す長い旅 by 大王

2001-04-02 芽衣殿足袋7回目

[芽衣殿足袋]

画像の説明 純喫茶ハ暗がりガ多い喫茶店デシタカラ、ふかふかのソファに座っているお客さんに注文をとりに行くと、お客さんが私を見るようとすると、どうしても地上から見上げるような変な姿勢になります。

画像の説明 みなさん。誇り高い客ばかりでしたので、そのような奇妙な姿勢で、注文をするふりを装って、私をみつめるような方は一人もいませんでした。

ほんとうは見てほしいけど

画像の説明 私はロボットのようにお客さんの注文を受けて、復唱し。モカでございますね。キリマンジャロでございますね。ブラックでようございますね。

画像の説明 そしてロボットのように、おまたせいたしました。モカでございます。と持ってゆきました。メニューをみるような初心者はまれで、たいていが、ご自分の好みのコーヒーを決めていました。

手に視線を感じるころ

画像の説明 お客さまが、私のカオを見上げてこない以上、お客さまと顔をあわすことはありませんでした。 私は、常にお客様の全身を座り位置で見下ろすしていましたので、お客さんが私自身をみつめたいのに、みつめつことができない、その葛藤を押して、わたしがコーヒーをお出しするその手に向かって、全身全霊をこめて、見つめてくる。そのことに気が付くのに、それほど長い時間はかかりませんでした。

画像の説明 どのお客様も私の手をみつめてきました。それはときとして、全身をみつめられるような切実な感覚を味わうことになりました。すごいなあ。みたいんだろうなあ。きっとみたいと思うけど、私の手しかみてこないから。

自宅でためしてみる

画像の説明 一度、自分の立ち位置をお客さまがみた場合、どの範囲まで見えるのか、自宅で座ってみて、試したことがあります。 わたしの立ち位置に、衣紋かけをおいて、メイド服をつるし、私は、座布団を5枚が差ねしたところでどこまでみえるのか。

画像の説明 すると、全部が見えるのは手だけで、メイド服のエプロンの正面以外は、それより上は見ることができませんでした。


2001-04-03 芽衣殿足袋8回目

[芽衣殿足袋]

画像の説明 しかし、あの時代は違っていました。ウエイトレスさんの全身を遠慮もなしに見る人は皆無でした。 やっと視界に入るのは、ウエイトレスの手。珈琲カップを出す手だけが、自由に眺められるすべてだったのです。

画像の説明 手にこめられた客の男性達と、祖母らウエイトレスの懸命な駆け引きのことを、現代人は誰も知りません。記憶に残っていたはずの男性客は、そんな記憶をとどめていることは稀で、ましてウエイトレスの側に、手が凝視されていたなんて記憶を明確に持っている人の方が少ない。

メイド服の行方

画像の説明 メイさんの祖母も、その後、長い間、この記憶を語ることはありませんでした。メイさんが子供の頃に、ふとした時間に、喫茶店の話題になったとき、祖母は、わたしもむかしはね。とうっとりとした表情で語るようになってはじめて、そういう記憶のことが孫娘に伝えられたのです。

画像の説明 あなた自身に喫茶店従業員の経験はないのですか?

 ないです。仮に祖母の時代の店があったとしても、今は、お客さんはその時代の方ではないし、私にはもう興味がありません。現実で再現できないことを再現しようとする無意味さをよく知っていますし。

かなえたい夢があるとすれば

画像の説明 祖母には、ひとつだけ、かなえたい生涯の夢がありました。

 純喫茶を復活することですか。

 まあ、そんなところですが。孫の私に、自分の記憶を追体験させたいという夢です。現実社会の中ではなく、仮想の社会の中で。金曜日の夜に、祖母の制服を着て町を歩き、手を凝視してくれる人を探す旅のようなことを続けているのも、そうした祖母の願いをかなえるためです。

画像の説明 うーん。それは不可能でしょう。あなたは、現代に生きているし、過去を再現してもしかたがない。

 不可能です。周囲の社会そのものがあの時代と同一ではないので、形ばかりでまったく別物であることに気が付いています。仮想社会に陶酔することができません。

いつでもできる

画像の説明 ただ、私は、これからも金曜日の週末は、コートの下に祖母のメイド服を着て歩くでしょう。

画像の説明 手をみつめてくれそうな人に出会いましたか。

 僕はメイさんにそうたずねたが返事はなかった。返事の代わりにメイさんはコートを着ました。

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2001-04-04 芽衣殿足袋9回目

[芽衣殿足袋]

画像の説明 メイさんは唐突に、コートを着始めた。それが終わりの合図のようでした。

 まだ十分に話を終えていないと思うのですが、メイさんは、話の結末をつけないままに、きょうを唐突に終わりにしようとしていました。

画像の説明 金曜日の夜は何時間でもいいとおっしゃっていたので、僕はここで失礼されると、このあとなにをしてよいのか、空白ができてしまうではないですか。

さようなら

画像の説明 あなたの都合にあわせて生きてゆくわけにはゆきません。私には、もっともっと、考えたり研究したりする時間が必要ですし。

画像の説明 メイド服をせっかく持っているのだから、いっそメイドカフェに就職してはどうでしょう。たしかに昔の純喫茶とは違いますが、現代には現代の幻想だってあると思いますよ。

何の意味もありませんよ

画像の説明 そうして、あなたが客としてきて、わたしを不躾かつ下品にじろじろながめる対象になれとでもいうのですか。ごめんこうむります。オコトワリ。

画像の説明 うげ。そうなんだ、。やはりメイド喫茶にいっていることがばっれているに違いない。

 おばあちゃんの時代は手の存在で、現代は全身で、客を魅了すればよいではありませんか。手に限定する必要はありませんよ。

手に限定する

画像の説明 私としては、手に限定してみたいです。一部を通じてすべてを理解しようとする。情報不足の中で想像する。その楽しみをあなたはもっと学んだほうがいい。

画像の説明 想像力の強化というわけですか。まあ、とても勉強になりました。きょうは、ありがとうございました。

 ゆきがかりじょう、礼を述べた。


2001-04-05 芽衣殿足袋10回目

[芽衣殿足袋]

画像の説明 唐突に終わりになったできごとというのは、意外に覚えているものです。予期せず終了してしまっただけに、あのときの行動には、どんな意味があったのか。とても気になります。

画像の説明 着ている服や、言葉の記憶を必死にたどります。想像力の欠如と非難されたものの、いまや、メイさんとの記憶を描く時、これほど想像力を発揮していることを、本人に伝えたいくらいです。

メイド服の行方

画像の説明 あの日のメイド服を今もメイさんは着ているのでしょうか。 金曜日になると、きょうはメイさんが手を凝視してくれる未知の人物を求めて街を歩いている。そういう想像が満ちて来ます。

画像の説明 同時に、あの夜あの時に、メイさんが微笑んでいた意味や、狭い場所にもぐりこんでいた記憶を懐かしく思い出します。

そうして

画像の説明 そうしてさらに年月が経つので、メイさんがどんな表情をしていたのか、怒っていたのか、懐かしんでいたのか。というものがさらにあいまいになってゆきます。

画像の説明 自分で都合が良いように作り変えて、想像力を現実化して、懐かしんだりすることもあります。

純喫茶の誘惑

画像の説明 最近、メイド喫茶にもゆかなくなりました。あの日以来、メイド喫茶ジュウギョウインから、大歓迎される自分が、別の視点で視界に捕らえることができるようになってしまい、とてもいやになってしまったからです。

画像の説明 あの時代に戻りたい。きっとメイさんの祖母は、そう思っていたのでしょう。だからこそ、孫娘に危険な空想世界の入り口に立たせてまで、不可能な願望をかなえたいと考えたのだと思います。

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