化粧女王を探す長い旅 by 大王

2001-04-03 芽衣殿足袋8回目

[芽衣殿足袋]

画像の説明 しかし、あの時代は違っていました。ウエイトレスさんの全身を遠慮もなしに見る人は皆無でした。 やっと視界に入るのは、ウエイトレスの手。珈琲カップを出す手だけが、自由に眺められるすべてだったのです。

画像の説明 手にこめられた客の男性達と、祖母らウエイトレスの懸命な駆け引きのことを、現代人は誰も知りません。記憶に残っていたはずの男性客は、そんな記憶をとどめていることは稀で、ましてウエイトレスの側に、手が凝視されていたなんて記憶を明確に持っている人の方が少ない。

メイド服の行方

画像の説明 メイさんの祖母も、その後、長い間、この記憶を語ることはありませんでした。メイさんが子供の頃に、ふとした時間に、喫茶店の話題になったとき、祖母は、わたしもむかしはね。とうっとりとした表情で語るようになってはじめて、そういう記憶のことが孫娘に伝えられたのです。

画像の説明 あなた自身に喫茶店従業員の経験はないのですか?

 ないです。仮に祖母の時代の店があったとしても、今は、お客さんはその時代の方ではないし、私にはもう興味がありません。現実で再現できないことを再現しようとする無意味さをよく知っていますし。

かなえたい夢があるとすれば

画像の説明 祖母には、ひとつだけ、かなえたい生涯の夢がありました。

 純喫茶を復活することですか。

 まあ、そんなところですが。孫の私に、自分の記憶を追体験させたいという夢です。現実社会の中ではなく、仮想の社会の中で。金曜日の夜に、祖母の制服を着て町を歩き、手を凝視してくれる人を探す旅のようなことを続けているのも、そうした祖母の願いをかなえるためです。

画像の説明 うーん。それは不可能でしょう。あなたは、現代に生きているし、過去を再現してもしかたがない。

 不可能です。周囲の社会そのものがあの時代と同一ではないので、形ばかりでまったく別物であることに気が付いています。仮想社会に陶酔することができません。

いつでもできる

画像の説明 ただ、私は、これからも金曜日の週末は、コートの下に祖母のメイド服を着て歩くでしょう。

画像の説明 手をみつめてくれそうな人に出会いましたか。

 僕はメイさんにそうたずねたが返事はなかった。返事の代わりにメイさんはコートを着ました。

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