化粧女王を探す長い旅 by 大王

2004-03-19 ■山の大神4

[山の大神]

 『山の大神』にはじめて相対した時のことは、今でも忘れられません。マンション駐車場から、樹木がしげった場所に来ると、そこに白い鳥居がありました。鳥居には『山の大神』と書いてあります。

マンションが侵略

 探しはじめて7年がたっていました。ずっと気になっていたその場所を、最初から真剣に探していれば、もっと早く知ることができたのでしょうが、それをしないままに、心の中に気掛かりな状態を続けていて、ようやく出会った。という気持ちは、それはそれでうれしいものです。

 白い鳥居をくぐり、広葉樹の樹木が茂っている山林に入りました。参道と思われる石段が続いていました。あまり人がお参りをしている形跡はありません。石段の左側は、マンション建築の際にノリ面を削られたのでしょう。参道のすぐそばは崖のように抉られ、かつては、ひとかたまりの小高い山だったはずの『山の大神』の場所は、周囲の宅地開発によって、極限まで、その神域を削られているようにも見えました。

 彼はどこにいるのか。石段を踏み締めながらのぼってゆきます。20段ほど歩いた時に少し広い場所に出ました。地蔵様か観音様かは分かりませんが、そういう石像が鎮座している平たんな場所に出て、まだまだ参道は上に続いていました。

 マンションに包囲されたこのあたりは、かつてはなだらかな裾野をもつ、小さな山だったに違いありません。山はどこからでものぼることができ、おりることもできた。そういう時代を思わせる周囲の風景でした。しかし、今は、参道は一方向しかなく、この道以外の道順のすべては、マンション建設の際に削られてするどい勾配の斜面になっています。どこにも行けない行き止まりの山になっているのです。

 そうして、なだらかで平たんな場所を過ぎ、さらに急な勾配の石段を数段のぼった時のことです。私は、身動きができなくなりました。石が積み上げられた、『山の大神』と、ばったりと出会ってしまった。そういう予期しない形で、その姿に驚いてしまったのです。

 そこには社殿もなければ、しめ縄もありませんでした。むき出しの石が積み上げられたように、石塔のように造形されたものでもなく、ただただ石が無造作と思える程に積んである、そのままの状態で、固められた彼の姿が、私の視界に入って来たのです。そうして、石積みは、はるばる訪ねて来た私を見とがめて厳しく、詰問するように、強烈な力を降り注いで来たのです。

 福岡市の西の繁華街、西新町からほどない、こんな賑やかな町の一角に、こんな山があり、このような空間があるとは、その瞬間は、ここが、どこなのか、わからなくなるほどの驚きでした。


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