[マレーシア化粧女王]

　『化粧女王様がいなくなってしまったんですが、どこにいったか御存じないでしょうか』　あちこち歩き回ってくたくたです。しゃがみこみたくなるほど。　福岡から船に乗って、ペナン島についたときです。とりあえず寺を訪ねたら、お釈迦様がねそべっていました。

　僕は、お釈迦様に聞きました。　『化粧女王は、どこにいったんですか？』。お釈迦様は、いま寝てるからとなりの観音様に聞いて、というので、観音様に聞いたら、まあ、そのうちにあらわれるでしょう。気長にまっていたらどう？　そんな悠長な。お釈迦様と観音様の時間と、僕の時間とは流れている速さが違う。　こりゃあ、いつまで聞いていてもはじまらないなあ。

　寺を出ると、道を歩いている人に『あのお。化粧女王はどこいったんですか』と声をかけました。

　あんた。どっからきたの？福岡です。化粧女王かどうかわかんないが、化粧した女はいるよ。おじさんが話してくれました。

　『あんたが言う化粧女王というのは、派手な化粧をしてるんだね』　うーん。派手というか、そんなに派手ではないんですけど。派手と言えば派手です。

　そんな曖昧なことでどうする。態度をキメラにゃあ、見つかるもんもみつからんで。エエどうなんだ。

　おじさんが急に恐くなりました。あ、はい、そうです。派手です。派手な化粧です。

　僕は、いい加減な妥協をしてしまいました。この妥協がとんでもない始まりになるなんて、そのときは少しも考えていませんでした。（つづく）