書籍

『詩集 サイードから風が吹いてくると』鈴木ユリイカ

Suzuki Yuriika Selection 1

『サイードから風が吹いてくると』
鈴木ユリイカ

四六判、並製、136頁
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-86385-411-6 C0092

第39回現代詩人賞受賞!!

1984年に現代詩ラ・メール新人賞で鮮烈デビューした鈴木ユリイカ。『MOBILE・愛』(第36回H氏賞)、『海のヴァイオリンがきこえる』(第3回詩歌文学館賞)、『ビルディングを運ぶ女たち』という3冊の詩集を上梓したあと、長く詩集の出版が待たれましたが、今回実に29年ぶりの新詩集が発刊されます。
長年にわたって戦争や平和、家族、社会、芸術についてなど、壮大なテーマに真摯に向き合ってきた鈴木ユリイカのその後をたどる3冊を、「Suzuki Yuriika Selection」として1か月に1冊刊行いたします。1冊目『サイードから風が吹いてくると』では、ヒロシマから物語を始めます。
 

HIROSHIMA MON AMOUR
見えない時間(とき)が泉のように湧き そして
 世界の人びとにあの日のことを知ってもらいたいと思っている
これほど語らない これほど静かな これほど美しい
 都市(まち)をわたしは見たことがなかった
 

わたしはこの世で生まれて見たものを書かなければならない。たとえ映像の中だけのものでも、たとえ触ることができなくても、このふたつの目が見たものは忘れることができない。数千回の春を迎えた都市よ。祈りの都市よ。わたしは虚無の下の虚無の下の虚無の下にわたしのマントから爆風に吹き飛ばされる種子を蒔く。またもや砕け散った巨大な穴に消えていった人々のまえで、熱風のなかで種子を蒔く。何かを信じるということがもはやできるだろうか?
「春」より

 

【目次】
HIROSHIMA MON AMOUR
G線上のアリア―ロストロポーヴィッチの若き日の演奏をCDで聴く
秋なれば塩こおろこおろと ヒロシマ学 1
マーラーへの予感 ヒロシマ学 2
方向を失ったいのち ヒロシマ学 3
未完の旅 Ⅰ
未完の旅 Ⅱ 故郷について 
風邪ひき夜の独り言
無限に生きる
ヴァーミリオン 1
ヴァーミリオン 2―ヨシエさんの話より
ここ
六十年
その男
ヒロシマにいる、きみ 1
ヒロシマにいる、きみ 2
わたくし・広島
マリリンに、予測不可能の
ゲーベン、エキザルベ、リンデロンVG

時のクレバス
ニュース
見えない炎
果てしない秋へ
サイードから風が吹いてくると
 


【著者プロフィール】
鈴木ユリイカ(すずき・ゆりいか)
1941年岐阜県生まれ、東京在住。3歳から6歳までを台湾で、その後18歳までを青森県で暮らす。明治大学仏文科卒。1983年に創刊された「現代詩ラ・メール」に投稿、翌年第1回ラ・メール新人賞受賞。詩集に『MOBILE・愛』(1986年・第36回H氏賞)、『海のヴァイオリンがきこえる』(1988年・第3回詩歌文学館賞)、『ビルディングを運ぶ女たち』(1991年)、『現代詩文庫 鈴木ユリイカ詩集』(2015年)がある(いずれも思潮社刊)。絵本に『おしょうがつさん』(世界文化社)、『たんぽぽのたねとんだ』(福音館書店)など。
責任編集を務める詩誌「something」(2005年創刊・年2回 書肆侃侃房刊)は2020年7月で31号となった。

「現代詩手帖」12月号

「書くべきことがあるということは何か。詩とは何かをあらためて考えさせてくれる」(松下育男さん)

「現代史の出来事を自らに引きつけ、弱い者の目線で書く詩はどれも深く胸を打つ」(和田まき子さん)

「29年ぶりの詩集2冊の、スケールの大きさに圧倒されました」(柴田千晶さん)

「29年ぶりの詩集。堂々の風格、唸った」(宮尾節子さん)

「その構想や文体、語り口の、個を突きぬけた在りようは類がない」(水島英己さん)

「詩人の願いの強さに心を打たれる」(中本道代さん)