『韓国映画から見る、激動の韓国近現代史』
歴史のダイナミズム、その光と影
崔盛旭
四六判、並製、368ページ
定価:本体2,200円+税
ISBN978-4-86385-624-0 C0074
デザイン 戸塚泰雄(nu)
植民地支配、南北分断と朝鮮戦争、長きにわたる軍事独裁、そして国民の手で勝ち取った民主化……。「3・1独立運動」「済州島4・3事件」「光州事件」「6月抗争」など激動そのものだった韓国の近現代史とそのなかで形作られてきた「儒教的家父長社会」。近年ますます存在感を高めている「韓国映画」を題材に、そこから透けて見える歴史や社会問題を解説。韓国という国のダイナミズムをより深く、より立体的に理解するための一冊である。
『パラサイト 半地下の家族』『タクシー運転手~約束は海を越えて~』『KCIA 南山の部長たち』『1987、ある闘いの真実』『ベイビー・ブローカー』『ミナリ』『はちどり』『息もできない』『キングメーカー 大統領を作った男』『高地戦』『金子文子と朴烈』『グエムル-漢江の怪物-』『焼肉ドラゴン』『私の少女』……韓国映画44本から激動の歴史を読み解く。
韓国映画はなぜ、悔恨と希望を同時に語るのか。
人間の奥底にひそむ心優しさに訴えかけるのか。
本書は現代の韓国映画を造り上げてきた、
人間の強さをめぐるエッセイである。
浅い水の戯れは愉しく美しい。
深い淵を覗きこむ者は、隠された物語を知る。
歴史という名の知恵のことだ。
――四方田犬彦(映画誌・比較文学研究家)
2024年5月上旬全国書店にて発売。
【目次】
はじめに
凡例
第1章 韓国と日本・アメリカ・北朝鮮
韓国と日本
❶『ロスト・メモリーズ』歴史「改変」映画は新たな解釈の可能性を提示できるか
❷『密偵』英雄か、逆賊か 歴史の曖昧さゆえに成し得た物語
❸『金子文子と朴烈』〝反日〟映画が再発見した、ある日本人女性の強烈な生
❹『マルモイ ことばあつめ』言葉が奪われた時代に、言葉を守り抜いた人々
❺『哭声/コクソン』韓国社会における、よそ者/日常としての日本
韓国とアメリカ・北朝鮮
❻『スウィング・キッズ』戦争とミュージカルのコントラストが叫ぶ「イデオロギーなんてくそったれ!」
❼『高地戦』人間に優先されるイデオロギーはない 無意味な攻防戦に散った若い命
➑ 『グエムル-漢江の怪物-』少女はなぜ死ななければならなかったのか? 〝反米〟に透けて見える映画の真のメッセージ
❾ 『白頭山大噴火』殺し合う南北/抱きしめ合う南北、映画に見る南北関係の変遷
❿ 『レッド・ファミリー』北朝鮮スパイの歴史と映画が描く韓国の欲望
コリアン・ディアスポラ
⓫ 『チスル』韓国現代史最大のタブー「済州島4・3事件」への鎮魂歌
⓬『焼肉ドラゴン』彼らが日本(ここ)にいる理由 家族史に見る「在日」の終わらないディアスポラ
⓭『ミナリ』アメリカは「夢」か「逃避」か? さまよう韓国人たち
⓮『ミッドナイト・ランナー』民族の再会から他者の排除へ 韓国映画は朝鮮族をどう描いたか
コラム監督論①チャン・リュル あらゆる境界を越えて東アジアを周遊する
第2章 軍事独裁から見る韓国現代史
朴正煕政権
⓯『国際市場で逢いましょう』それでも「あの時代は良かった」? 独裁時代と父親たちに贈るノスタルジア
⓰『7番房の奇跡』法は公正なのか? 独裁時代の暗黒司法史と死刑執行停止のいま
⓱『KCIA 南山の部長たち』正義心か、ジェラシーか 独裁者を撃ち抜く弾丸が意味するもの
全斗煥政権
⓲『タクシー運転手~約束は海を越えて~』韓国現代史上最悪の虐殺「光州事件」の真相に挑んだ劇映画
⓳ 『弁護人』 仕立てられた「アカ」のために闘った人権弁護士 盧武鉉大統領前史
⓴ 『1987、ある闘いの真実』二人の大学生の死が導いた独裁の終焉と民主化への一歩
コラム監督論②イ・チャンドン 作品に見る光州事件と1980年代韓国現代史
第3章 韓国を分断するものたち
格差
㉑『パラサイト 半地下の家族』韓国社会の格差を浮き彫りにする三つのキーワードから見えてくるもの
㉒ 『国家が破産する日』政経癒着の帰結としての「IMF通貨危機」、それがもたらした分断社会
㉓『バーニング 劇場版』「村上春樹ブーム」と「喪失」の90年代韓国を、現代の若者像に翻訳する
儒教的男性社会
㉔『はちどり』 少女の眼差しが晒す韓国儒教社会と暴力の連鎖
㉕『82年生まれ、キム・ジヨン』 抑圧に押し潰された女性たちが、自らの声を取り戻すまで
㉖ 『息もできない』底辺に生きる男が「悪口」の果てに求めた「家族のメロドラマ」
㉗『お嬢さん』男もヒエラルキーも乗り越えて 《帝国》と《植民地》の女性、勝利の連帯へ
㉘『ハハハ』〝あるべき男性像〟を笑い飛ばしてくれる、大いなる人間賛歌
マイノリティ
㉙ 『ファイター、北からの挑戦者』現在進行形のディアスポラ「脱北者」の少女が拳で立ち向かう韓国
㉚『バッカス・レディ』歴史の影に取り残された女性による、男性への復讐譚
㉛ 『私の少女』儒教・異性愛・ホモソーシャルな韓国社会にLGBTQの未来はあるか
㉜『トガニ 幼き瞳の告発』国民の怒りを呼び起こし、社会を変えた一本の映画
コラム監督論③女性監督の系譜 映画『オマージュ』が復元する女性(映画)史
第4章 韓国の〝今〟を考える
政治とメディア
㉝『キングメーカー 大統領を作った男』選挙の負のレガシーを作った男たち 「カルラチギ」の起源をたどる
㉞ 『アシュラ』大統領選を前に《逆走行》した一本の映画から、政経癒着の歴史を紐解く
㉟ 『共犯者たち』権力とメディアの関係性を皮肉に暴くドキュメンタリー
社会問題
㊱『冬の小鳥』踏みにじられた人権 韓国養子縁組問題の背景を探る
㊲『ベイビー・ブローカー』韓国で映画を撮った日本人監督たち 浮かび上がる韓国
㊳『殺人の追憶』連続殺人と軍事独裁という絶妙なメタファー
㊴『サムジンカンパニー1995』「英語」を武器に下剋上を目論む高卒女性たちの反乱
㊵『整形水』「美」は誰の欲望か? 外見至上主義と整形大国の関係性
㊶『明日へ』勝ち取る喜びをもとめて デモ大国・韓国における闘うことの意味
㊷ 『サバハ』新興宗教が乱立する韓国社会 エセにすがる人々の宗教的心性
㊸『君の誕生日』セウォル号事件 遺族の悲しみに「寄り添う」ということ
㊹ 『D.P.-脱走兵追跡官-』韓国兵役物語 若者たちの絶望と軍隊をめぐる諸問題
コラム監督論④キム・ギヨン 〝怪物〟監督の全盛期に見る韓国社会の深層
おわりに
韓国近現代史年表
韓国歴代大統領詳細
索引 i
初出一覧 ii
主な参考文献・検索サイト v
書肆侃侃房のポッドキャスト崔盛旭さん出演回▼
https://podcasters.spotify.com/pod/show/shoshikankanbo
#1 ゲスト・崔盛旭さん「韓国映画、日本映画、崔さんのすすむ未来」
記念すべき初回のゲストは、書肆侃侃房から大好評発売中の『韓国映画から見る、激動の韓国近現代史』著者、崔盛旭(チェ・ソンウク)さん。 本が生まれるまでの道のりや、崔さんが考える今の韓国映画と日本映画、福岡に来てみて感じたこと、出会った人々…崔さんの源流を辿りながら楽しくお聞きしました! (聞き手:編集 池田、営業 倉本、収録:本のあるところajiro)
【著者プロフィール】
崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。明治学院大学、東京工業大学、名古屋大学、武蔵大学、フェリス女学院大学で非常勤講師として、韓国を含む東アジア映画、韓国近現代史、韓国語などを教えている。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)、『韓国女性映画 わたしたちの物語』(河出書房新社)など。日韓の映画を中心に映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。