『絵画の力学』
沢山遼
A5判、上製、408ページ
定価:本体2,700円+税
ISBN978-4-86385-422-2 C0070 3刷
装幀 宇平剛史
美術作品は思想たりうる。そしてその思想は事物としての作品にこそ結実している。
事物としての作品の徹底した調査、精緻な分析が導き出すのは、別の思想の可能性である。
かつて現代美術と呼ばれた作品たちを、現代(その時代の拘束)から解放するために、著者は作品のいかなる細部も見逃さない。
いまだ考えるに値し、制作するに値する、さまざまな問題=主題群がそこにある。
それを教え、元気を与える、これが批評の本来あるべき姿だ。
この真摯な純度を見よ!
──────岡﨑乾二郎
芸術を経験することとは、振動する差異と諸力のただなかに巻き込まれることだ。芸術の思考=批評はそこから開始される。
アンディ・ウォーホル、ジャクソン・ポロック、バーネット・ニューマン、カール・アンドレ、ロバート・モリス、香月泰男、福沢一郎、辰野登恵子、高松次郎、ゴードン・マッタ゠クラーク、ロザリンド・クラウス、クレメント・グリーンバーグ、イサム・ノグチ──。
「美術手帖」芸術評論募集第一席を受賞した著者による堂々たる初の単著。単行本書き下ろしとして、イサム・ノグチ論「火星から見られる彫刻」を収録する。美術批評の新たな達成。
2020年10月全国書店にて発売予定。
【目次】
序
Ⅰ 絵画の思考
第1章 ジャクソン・ポロック──隣接性の原理
第2章 福沢一郎と場
第3章 限界経験と絵画の拘束──香月泰男のシベリア
第4章 差異と関係──ジョセフ・アルバースとブラック・マウンテン・カレッジの思想
第5章 ニューマンのパラドクス
第6章 ウォーホルと時間
第7章 辰野登恵子──グリッド/斜行/アクソノメトリー
Ⅱ 事物経験の位相
第8章 繋辞なき反復──高松次郎の非‐命題
第9章 レイバー・ワーク──カール・アンドレにおける制作の概念
第10章 都市の否定的なものたち──ニューヨーク、東京、1972年
第11章 事物の退隠──ロバート・モリスの盲目性
第12章 火星から見られる彫刻
Ⅲ テクストの力学
第13章 自然という戦略──宗教的力としての民藝
第14章 ポスト=メディウム・コンディションとは何か?
第15章 形象が歪む──アヴァンギャルドとキッチュ
参考文献
あとがき
【序より】
芸術を経験することとは、振動する差異と諸力のただなかに巻き込まれることだ。芸術の思考=批評はそこから開始される。本書は、そのような、絡み合いせめぎ合う諸力の束としての芸術作品の分析を試みる。俎上に載せられるのは、絵画、彫刻、批評など、いずれも、近現代の芸術動向と深く関わる対象群だ。(……)
「一」であると同時に「多」であるところの芸術、意志と方向をもつ芸術、客体化された一個の思考・思想としての芸術。作品を知覚すること、批評することの出発点に、こうした芸術の力学を置くことから、本書は始められる。
【著者プロフィール】
沢山遼(さわやま・りょう)
1982年、岡山県生まれ。近現代美術/美術批評。武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程修了。2009年「レイバー・ワーク──カール・アンドレにおける制作の概念」で『美術手帖』第14回芸術評論募集第一席。主な共著に『現代アート10講』(田中正之編著、武蔵野美術大学出版局、2017年)などがある。
フェア情報
『絵画の力学』刊行記念 沢山遼さん選書フェア
会期:2020年10月16日(金)~11月23日(月)
場所:NADiff a/p/a/r/t(東京・恵比寿)
《作品の向こう側ではなく、作品の内側に政治はある。沢山はそこへの巻き込まれることを芸術の思考=批評の始発点としている》
「日刊ゲンダイ」2020年11月17日 評者=倉阪鬼一郎さん
《バーネット・ニューマンのフィールドとジップのせめぎ合いについての論考などはことにスリリングだ》
《芸術作品を徹底して考えることを実践した、渾身の美術批評である。〔……〕建築の視点からも刺激的な内容になっている》
「週刊読書人」2021年1月15日号 評者=荻野哉さん
《作品群を徹底的に調査し、詳細に分析する著者の姿勢からは、芸術の思考=批評を新たに打ち立てようとする覚悟と信念が見てとれる。〔……〕美術批評の新たな地平の広がりを実感できる点に、本書と向き合う最上の喜びがある》
「みすず」2021年1・2月合併号 評者=五十嵐太郎さん
《芸術作品を徹底して考えることを実践〔……〕すでに完成した作品の解釈ではなく、いかなる力学によって作品が生成されたかを追体験するような批評が展開》
「みすず」2021年1・2月合併号 評者=岡田温司さん
《さまざまな批評理論を縦横無尽に、かつ慎重に駆使しながら内外のモダンアートを自在に論じる》
「かもべり」2021年3月3日 沢山遼さんインタビュー「作品と批評のダイナミクスを探る」(取材・文=島貫泰介さん)
《これまで書いてきた批評をまとめる作業は、すなわち「自分の批評の主題はなんだったのか」と考え直す、考え直さざるを得ない機会でもありました》