書籍

『前川佐美雄歌集』前川佐美雄/三枝昻之編

『前川佐美雄歌集』
前川佐美雄/三枝昻之​編

四六判、上製、368ページ
定価:本体2,400円+税
ISBN978-4-86385-589-2 C0092

装幀:六月

栞:石川美南、菅原百合絵、永井祐

 

生誕120年!

いますぐに君はこの街に放火せよその焔の何んとうつくしからむ (『植物祭』)

塚本邦雄、山中智恵子の師であり、「現代短歌の発端」として比類なき歌を紡いだ歌人・前川佐美雄。

代表歌集『植物祭』『大和』を完本で収録、前川佐美雄の短歌世界を見渡せる1600首。編者による詳細な解説、年譜を付す。

『葛原妙子歌集』(川野里子編)、『山中智恵子歌集』(水原紫苑編)に続く新編歌集シリーズの第3弾。

 

「前川佐美雄という人は、〈白痴〉の自由な境地に憧れを抱き、時には何かに憑かれたように物狂おしく歌いながらも、ついに一つの信念に溺れることのできない人だったのではないか。(中略)私はそのアンビバレントな佇まいと、それでいて〈ごまかしのちつとも利かない性分〉に、非常な魅力を感じるのである」

─────────石川美南(栞より)

 

「ひとり野をゆき、萩の群れ咲くなかに自らの「たましひ」を見つめる孤高の歌人の姿が浮かび上ってくる。(中略)彼の歌業に一貫して流れているのは、「人間の歴史の最初」から人を、そして「われ」を捉えて離さない根源的な不安であり孤独であるだろう」

─────────菅原百合絵(栞より)

 

「そのスパークの仕方に惹きつけられてすぐ好きになった。それまでに知っていた、たとえば戦後の名歌集にある緊張感やきびしさ、一首の格調、ゆるぎなさとはだいぶ違うもので、驚いたし、一人の思い込みだけれどなんとなくシンパシーを感じたのだった。(中略)前川佐美雄という優れた電波塔が送受信していたものを、わたしたちはその歌から受け取って、上手くいけば肌に感じるように体験することができるだろう」

─────────永井祐(栞より)

 

 

2023年8月発売予定です。

 

【目次】

『春の日』/『植物祭』(完本)/『白鳳』/『大和』(完本)/『天平雲』/『日本し美し』/『金剛』/『紅梅』/『積日』/『鳥取抄』/『捜神』/『松杉』/『白木黒木』/『天上紅葉』/解説(三枝昻之)/前川佐美雄年譜

 

【栞】

石川美南「見える人は、見えない場所で」

菅原百合絵「野をゆく人の省察」

永井祐「佐美雄体験」

 

【収録歌より】

いますぐに君はこの街に放火せよその焔の何んとうつくしからむ(『植物祭』)

春がすみいよよ濃くなる真昼間のなにも見えねば大和と思へ(『大和』)

春の夜にわが思ふなりわかき日のからくれなゐや悲しかりける(『大和』)

火の如くなりてわが行く枯野原二月の雲雀身ぬちに入れぬ(『捜神』)

「おつくう」は億劫(おくこふ)にして億年の意としいへればこころ安んず(『白木黒木』)

 

【著者プロフィール】

前川佐美雄(まえかわ・さみお)

1903(明治36)年奈良県忍海村に代々農林業を営む前川家長男として生まれる。1921年、「心の花」に入会、佐佐木信綱に師事。22年、上京し東洋大学東洋文学科に入学、「心の花」の新井洸、木下利玄、石榑茂から刺激を受け、同年9月の二科展で古賀春江の作品に感銘、関心をモダニズムに広げる。30年に歌集『植物祭』刊行、モダニズム短歌の代表的な存在となる。33年奈良に帰郷、翌年「日本歌人」創刊、モダニズムを大和の歴史風土に根づかせた独行的世界を確立。占領期には戦争歌人の一人として糾弾されたが、『捜神』の乱調含みの美意識が評価され、門下の塚本邦雄、前登志夫、山中智恵子等が活躍、島津忠夫が現代短歌の発端を『植物祭』と見るなど、現代短歌の源流とされる。迢空賞受賞『白木黒木』からの佐美雄の老いの歌は人生的な詠嘆を薄めた融通無碍の世界である。1970年に奈良を離れて神奈川県茅ヶ崎に移り、1990年87歳で死去。

 

【編者プロフィール】

三枝昻之(さいぐさ・たかゆき)

1944(昭和19)年山梨県甲府市に生まれる。早稲田大学第一政経学部経済学科入学と同時に早稲田短歌会で活動、卒業後同人誌「反措定」創刊に参加。現在は歌誌「りとむ」発行人、宮中歌会始選者、日本経済新聞歌壇選者。歌集に『甲州百目』『農鳥』『天目』『遅速あり』他。近現代短歌研究書に『うたの水脈』『前川佐美雄』『啄木ーふるさとの空遠みかも』『昭和短歌の精神史』他、近刊『佐佐木信綱と短歌の百年』。現代歌人協会賞(1978)、若山牧水賞(2002)、やまなし文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、斎藤茂吉短歌文学賞、角川財団学芸賞(2006)、神奈川文化賞(2010)、現代短歌大賞(2009)、日本歌人クラブ大賞(2022)、紫綬褒章(2011)、迢空賞(2020)、旭日小綬章(2021)他。2013年より山梨県立文学館館長を務める。

書評・掲載情報

10/22 朝日新聞 短歌時評 評者=小島なおさん 「なにも見えねば」
《新しい視界のめくるめく『植物祭』から、なにも見えない『大和』へ。戦争を、日本を見ようとみひらく歌人の眼がある》

12/16 毎日新聞 2023年この3冊 評者=小島ゆかりさん
《時代と作品史の変遷、風土と家、伝統と革新などを的確に記した三枝昻之の解説の力》

「短歌」1月号 評者=越慶次郎さん
《時代が短歌や個人に与える影響を考えるとこのためにも、この一冊を手元に置いていたいと思う》