書籍

『山中智恵子歌集』山中智恵子/水原紫苑編

『山中智恵子歌集』
山中智恵子/水原紫苑編

四六判、上製、296ページ
定価:本体2,100円+税
ISBN978-4-86385-531-1 C0092

装幀:六月

栞:小島なお、瀬戸夏子、藪内亮輔

 

行きて負ふかなしみぞここ鳥髪に雪降るさらば明日も降りなむ(『みずかありなむ』)

 

「私は言葉だつた。」

短歌の韻律に乗せて人間存在を徹底的に問うた歌人・山中智恵子。

代表歌集『紡錘』『みずかありなむ』『夢之記』を完本で収録。

山中智恵子の全貌を見渡せる1600首を収める。

『葛原妙子歌集』(川野里子編)に続く新編シリーズの第2弾!

 

 

「古来のうつくしい韻律の匣にただひとつのことを望みながら仕舞われた言葉が届くことは永遠にない。その矛盾に引き裂かれる痛みの、鋭くかなしい眩さが山中智恵子の短歌なのかもしれない」

─────────小島なお(栞より)

 

「山中智恵子は、言葉の歌人だった。それは短歌の世界では得難い存在で、その歌は心ではなく言葉に飢えていた人々の心を潤した。(……)「鳥髪」は脱色されている。山中自身の、歌そのものへと純化したいという願いとともに。言葉が言葉であることさえを捨てて、歌そのものになるために」

─────────瀬戸夏子(栞より)

 

「人間の棲まう現世と、そうでない領域の〈境〉を見詰め続けることによって、虚と実に引き裂かれた亀裂の真空状態、幽の領域へと侵入したのが山中の歌業の一つだ」

─────────藪内亮輔(栞より)

 

2022年8月上旬発売予定。

 

【目次】

『空間格子』/『紡錘』(完本)/『みずかありなむ』(完本)/『虚空日月』/『青章』/『短歌行』/『星醒記』/『星肆』/『神末』/『喝食天』/『鶺鴒界』/『夢之記』(完本)/『黒翁』/『風騒思女集』/『玉蜻』/『玉菨鎮石』/『玲瓏之記』/解説(水原紫苑)/山中智恵子年譜

 

【栞】

小島なお「匣のなかの贈物」

瀬戸夏子「殺害のプロセス」

藪内亮輔「山中智恵子の〈境〉 ──『みずかありなむ』を中心に」

 

【収録歌より】

うつしみに何の矜恃ぞあかあかと蠍座は西に尾をしづめゆく(『空間格子』)

わが生みて渡れる鳥と思ふまで昼澄みゆきぬ訪ひがたきかも(『紡錘』)

行きて負ふかなしみぞここ鳥髪に雪降るさらば明日も降りなむ(『みずかありなむ』)

その問ひを負へよ夕日は降ちゆき幻日のごと青旗なびく(『みずかありなむ』)

さくらびと夢になせとや亡命の夜に降る雪をわれも歩めり(『虚空日月』)

 

【著者プロフィール】

山中智恵子(やまなか・ちえこ)

1925(大正14)年愛知県名古屋市生まれ。前川佐美雄に師事。1946年秋「日本歌人」入会。1955年第1回「短歌研究」新人賞応募(佳作)。1960年塚本邦雄らの同人誌「極」に、1964年村上一郎の同人誌「無名鬼」に参加。歌集に『紡錘』『みずかありなむ』『青章』(現代短歌女流賞)『星肆』(迢空賞)『夢之記』『黒翁』『玉蜻』など。他にライフワーク『斎宮志』に代表される斎宮制度解明の史書がある。没後、『山中智恵子全歌集』『玉すだれ 山中智恵子句集』。鈴鹿市寺家町正因寺の山中家の墓に眠る。

 

【編者プロフィール】

水原紫苑(みずはら・しおん)

1959年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学大学院文学研究科仏文学専攻修士課程修了。86年、「中部短歌会」に入会。以後春日井建に師事、師の没後は単独で活動。歌集に『びあんか』(第34回現代歌人協会賞)『客人』(第1回駿河梅花文学賞)『くわんおん』(第10回河野愛子賞)『あかるたへ』(第5回山本健吉賞・第10回若山牧水賞)『えぴすとれー』(第28回紫式部文学賞)『如何なる花束にも無き花を』(第62回毎日芸術賞)などがある。

書評

週刊読書人(12/16) 「二〇二二年の収穫!!」 評者=金原瑞人さん

《山中智恵子+水原紫苑+書肆侃侃房。まさに絶妙の組み合わせだと思う。栞に小島なお、瀬戸夏子、藪内亮輔のエッセイというのもうれしい》

図書新聞12月10日号 評者=阿木津英さん

《(……)本集は山中智恵子の歌業が簡便な形で一望でき、しかも歌風の推移のおおよそが掴める、手頃な歌集であるといえよう》