『母の愛、僕のラブ』
柴田葵
A5判変形、並製、128ページ
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-86385-387-4 C0092 3刷
装画:宮崎夏次系
栞:大森静佳、染野太朗、永井祐、野口あや子、文月悠光
第一回笹井宏之賞大賞受賞!
選考委員、激賞!!
「この作者は、短歌の一人称性に、ジェンダーの問題に、なにか大きなものを投げかけている」(大森静佳)
「俯瞰と接近、そのうねりによってこの歌集は、いかにも強いエネルギーを纏っている」(染野太朗)
「柴田の歌のわたしが好きなところは、生きること、生きている社会をまっすぐに問う姿勢である」(永井祐)
「柴田の歌を愛することは、現在の私たちの生をもまた肯定することになるのだろう」(野口あや子)
「歌が発する問いかけは、針のように鋭く真実を貫くのだ。その痛みと輝きに、やはり私は恐れをなす」(文月悠光)
2019年12月全国書店にて発売。
【目次】
ぺらぺらなおでん
不在通知
冬と進化
より良い世界
さよなら
逃げるための舟
七月のひとり
忍たまが好きだった柏木くん
強いとんび
生活をする
カレンダーを繰る
結婚記念日と歯痛
ウィンターワンダーランド
母の愛、僕のラブ
【栞】
マトリョーシカではない 大森静佳
俯瞰と接近 染野太朗
熱いハートのキュアおでん 永井祐
泡立った波がひいていく、そのさまを 野口あや子
「わたし」に挑む 文月悠光
【歌集より5首】
プリキュアになるならわたしはキュアおでん 熱いハートのキュアおでんだよ
なんの樹か知らないけれど黄金の葉がほろほろとみんなの肩へ
バーミヤンの桃ぱっかんと割れる夜あなたを殴れば店員がくる
いつぶりか消しゴムに触れ消しゴムの静けさが胸へひろがる火曜
飽きるほど誕生日してめくるめくまっ白な髪を抱きしめあおう
【著者プロフィール】
柴田葵(しばた・あおい)
1982年神奈川県生まれ、東京都在住。慶應義塾大学文学部卒。元銀行員、現在はライター。
「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、
育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。
第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
書評
「ダ・ヴィンチ」11月号 対談 柴田葵×ヒコロヒー 発言=ヒコロヒーさん
《初めて「なにこれ、おもしろい!」と思えた歌集でした》
「毎日新聞」2023年5月27日 評者=ヒコロヒーさん
《現代的な感性をもってして短歌を使ってひどくふざけているような歌の集合に夢中になっていた。収められている短歌からは著者の確固たるアイデンティティーと生きている時代とユニークなセンスが実直に滴っている》
「沃野」2020年7月号 評者=山田恵子さん
《ページを埋める歌のひとつひとつが、繊細で奥行きが深い。そしてまるでメロディーのように五七五七七が流れてゆく。〔……〕全体に流れるジェンダーレスな空気感は、柴田さんの思いでありもしかしたら生き方なのかも》
《読んでまず抱いた印象は「どこか過剰なところがある」というものだ。〔……〕複数の「今」があり、作中主体の〈私〉は飛び石の上を渡るように次々と「今」を渡る》
《属性をめぐるステレオタイプに対し、高度に構築された作為によって問いかけをしているのが、柴田葵の第一歌集『母の愛、僕のラブ』だ。〔……〕この歌集の「わたし」は面白いほどひとつの像を結ぶことがないのに、ただ生の怒涛とそれを全力で肯定しようとする意志のみが強く手渡される》
《あとがきに「たぶん、あなたの手にあるその短歌は、あなたです。」とあり思い出した。自分と出会うためにだけわたしは人の歌を読むのだ》
「本の雑誌」2020年4月号 評者=石川美南さん
《数ページ読んで、これはなんだかすごいぞと思い、最後まで興奮気味に読み切った。〔……〕柴田葵は、女と男、親と子といった人間の関係性について冷静な視線で捉え直している。語り口は軽やかだが細部まで練られており、読み込むほどに心の壁が見えてくる。連作構成も密で、連作全体を読むとさらに味わいが深まる。作者の肉声に近いと思われる連作もあれば、複数の声を使い分けているものもあるが、作者の意識が隅々まで行き渡っていて、作り物っぽさがない》
「赤旗」2020年3月23日 評者=谷川電話さん
《この歌集には、主体である〈私〉の〈生きづらさ〉を表現した短歌がたくさん収録されているけれど、読んでいると、不思議と癒やしのようなものを感じる。それは、〈私〉が、常に孤独に、全力で〈生きづらさ〉と戦うという方法ではなく、時には他者と協力しながら、時にはユーモアを交えながら、時には脱力しながら、〈生きづらさ〉と戦うという方法を選択しているからだと思う。〈私〉のこのようなしなやかな強さに、読者は勇気づけられるだろう》
《作品が多くの主張や苦しみや愛(ラブ)を織り込んでいて圧倒される》