現代歌人シリーズ26
『石蓮花』
吉川宏志
四六判変形/並製/144頁
本体2000円+税
ISBN978-4-86385-355-3 C0092
装幀・装画 毛利一枝
第70回 芸術選奨文部科学大臣賞
第31回 齋藤茂吉短歌文学賞
ダブル受賞!
初めのほうは見ていなかった船影が海の奥へと吸いこまれゆく
その瞬間を、その感情を、わたしは確かに知っている。知っているからもう充分なのに、吉川さんの歌はバレンを何度も押し当てるがごとく、過去と未来の記憶を鮮明に浮き上がらせるのだ。
――椰月美智子
母が亡くなる二日前の夕方、かすれた声で「アビカンス、アビカンス」と、繰り返しつぶやいていた。母が若かったときに見たこの石の花が、夢の中にあらわれてきたのかもしれない。
言葉は、生と死の境界をふっと超えて行き来することがある。短歌の言葉もそれに深く関わっているように思う。普通ならばすぐに消えてしまう声を、目に見えない遠いところへ届けようとする試みが、歌を作るということではないだろうか。(あとがきより)
【著者プロフィール】
吉川宏志(よしかわ・ひろし)
1969年宮崎県生まれ。京都大学文学部卒業。現在、京都市在住。
1995年、第1歌集『青蝉』を刊行。翌年、第40回現代歌人協会賞を受賞。
2016年刊行の第7歌集『鳥の見しもの』で、第21回若山牧水賞と第9回小野市詩歌文学賞を受賞している。
歌集には他に、『夜光』、『海雨』、『曳舟』、『燕麦』などがある。
評論集に『風景と実感』、『読みと他者』など。
塔短歌会主宰。京都新聞歌壇選者。
Twitter:@aosemi1995
2019年3月中旬全国書店にて発売。
現代歌人シリーズ
現代短歌とは何か。前衛短歌を継走するニューウェーブからポスト・ニューウェーブ、さらに、まだ名づけられていない世代まで、現代短歌は確かに生き続けている。彼らはいま、何を考え、どこに向かおうとしているのか……。このシリーズは、縁あって出会った現代歌人による「詩歌の未来」のための饗宴である。
現代歌人シリーズホームページ:http://www.shintanka.com/gendai
書評
「ガーネット」VOL.88
《家族を通した日常が描かれていて、後半は亡くなった母への挽歌が収められている。亡くなる前に母のつぶやいていた「アビカンス」という言葉。調べると、「石蓮花」と呼ばれる観葉植物だと分かる。三か月後、生家を訪ねると、その庭にはアビカンスがいちめんに咲いていたと》
「毎日新聞」2019年月30日 評者=田中俊廣さん
《社会や自己への批評性を内在した、ヒリヒリとした心象が思想へと転化することばが鮮烈である》