『石川信雄全歌集』
鈴木ひとみ編
四六判、上製、392ページ
定価:本体2,800円+税
ISBN978-4-86385-648-6 C0092
装幀:須山悠里
装画:角田純
栞:穂村弘 東直子 黒瀬珂瀾
ポオリイのはじめてのてがみは夏のころ今日はあついわと書き出されあり(『シネマ』)
モダニズム短歌の頂きをなす伝説の歌集『シネマ』で颯爽とデビューし、エスプリに満ちた瑞々しい歌で時代を駆け抜けた稀代のポエジイ・タンキスト、石川信雄。没後60年の節目についに明らかになる孤独なマイナーポエットの全貌。
モダニズム短歌を代表する伝説の歌集『シネマ』、トラブルのため50部しか刊行されず幻となった『太白光』のほか、退色した原稿用紙として発見され、今回初めて世に出る『紅貝抄』と歌集未収録歌をおさめる。
「短歌史の中で石川信雄は砂に埋もれていたコーナーストーンのような存在かもしれない。この礎石を発掘することにより、同時代の地層から煌めく鉱石が次々と姿を現すだろう。それらの群像に光が注がれるなら、現代短歌に至る道程の失われた断片が見つかるにちがいない」(編者あとがきより)
「今読んでも、というか、今読むからこそ強く感じる新鮮さは、作者の個性であると同時に、時代そのものの若さに根ざしたものでもあるのだろう。(略)新時代のポエジーへの強い希求が感じられる。現在の読者である私の目には、それ自体が眩しく映る」
─────────穂村弘(栞より)
「定型に呼吸が寄りそうように置かれた言葉はとても自然で、現代の口語短歌の中に混じっていても違和感はあまりないだろう。(略)多数の歌集未収録作品も収載され、石川信雄が積み上げてきた作品世界が一望できる。その貴重さを喜びたい」
─────────東直子(栞より)
「石川信雄の歌世界は知的遊戯を超えた詩的格闘の結露として、昭和の詩精神に輝きを添えている。(略)石川信雄の評価を大きく変える作品群であり、昭和モダニズムのひとつの到達であり、そして、新たな研究の出発点である」
─────────黒瀬珂瀾(栞より)
2024年12月発売予定です。
【目次】
『シネマ』/『太白光』/『紅貝抄』/歌集未収録歌/戦地からの手紙/解題/石川信雄年譜/解説/編者あとがき
【収録歌より】
わが肩によぢのぼつては踊(をど)りゐたミツキイ猿(さる)を沼に投げ込む 『シネマ』
パイプをばピストルのごとく覗(ねら)ふとき白き鳩の一羽地に舞ひおちぬ 『シネマ』
すばらしい詩をつくらうと窓あけてシヤツも下着もいま脫ぎすてる 『シネマ』
人影のまつたく消えた街のなかでピエ・ド・ネエをするピエ・ド・ネエをする 『シネマ』
善よりは惡にかたむける人間(ひと)を載せ我が圓球(えんきゅう)は虚空(こくう)を旅す 『太白光』
磁石持ちて吸はるるごとく分け入ればミサンスロオプと告白すべき 『太白光』
天國のペンキ屋バケツに蹴つまづきニツポンの野山目のさめる秋 『太白光』
貝殻がぼくの胸にはたくさんある恋というはかない音をかなずる 『紅貝抄』
詩才などぼくは生れつき持たなんだ憂鬱(メランコリック)なライナァ・マァリァ・リルケの夢ばかり見き 『紅貝抄』
ひそかにも伝えられ来し言葉なれ我が誕生の夜の灯(ひ)にじむ 『紅貝抄』
【栞】
穂村弘「ポオリイとリュリュ」
東直子「空想と現実を往来する「まはだか」」
黒瀬珂瀾「「点」から「流れ」へ」
【著者プロフィール】
石川信雄(いしかわ・のぶお)
歌人、翻訳家。埼玉県出身。1908年、石川組製糸分家の長男として出生。第二早稲田高等学院・早稲田大学政経学部在学中に植草甚一らと英語劇に熱中し、文学に傾倒する。30年に筏井嘉一らと「エスプリ」を創刊。続いて「短歌作品」と「日本歌人」の創刊に参画。大学中退後、36年に第一歌集『シネマ』を刊行し注目を集める。同年に父が他界し、文藝春秋社に就職する。39年に応召。第五一連隊から江蘇省に派遣され、翌年支那派遣軍総司令部報道部に転属する。汪兆銘政権下の南京で、草野心平と中日文化誌「黄鳥」を発行。44年に土屋文明・加藤楸邨と中国大陸を横断する。戦後は多くの欧米文学者の小説を翻訳した。50年に第二次「短歌作品」を再刊すると同時に、「日本歌人」復刊に参加。54年に第二歌集『太白光』を発行。61年「宇宙風」短歌会創設。64年死去、享年56。
【編者プロフィール】
鈴木ひとみ(すずき・ひとみ)
京都市出身。石川信雄の姪。同志社女子大学卒業。ミネソタ大学、筑波大学大学院人文社会科学研究科、立命館大学大学院先端総合学術研究科で学ぶ。ヘイルストーン英語俳句サークル同人。共編著に『京都まちかど遺産めぐり』(ナカニシヤ出版)、『石川信雄著作集』(青磁社)、『黄鳥』(三人社)、『I WISH』ヘイルストーン英語俳句アンソロジー(代表編集スティーヴン・ギル)など。