書籍

『世界同時かなしい日に』山下一路

『世界同時かなしい日に』
山下一路

四六判、並製、208ページ
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-86385-647-9 C0092

編者:飯島章友 沢茱萸 高柳蕗子 土井礼一郎

装幀:山田和寛+竹尾天輝子(nipponia)

栞:伊舎堂仁 坪内稔典

 

世界同時かなしい日に雨傘が舗道の上をころがる制度のような驟雨

2023年に亡くなった山下一路の作品を有志がまとめ、第二歌集『スーパーアメフラシ』(2017年)以降に発表された歌を中心に編まれた遺歌集。

 

「山下短歌は、人々が日常生活を最優先する中で「考えなくなっている事柄」を寓意的にではありますが伝えようとしています。文体こそ軽みを持っていますが、本人はちっともは面白がらず、溜飲も下げず、深く悲しんでいるようです。それは絶望と紙一重だったかもしれません」(編者あとがきより)

 

「これからたくさん軽口を叩かれ、笑ったり、苦笑(にがわら)ったりの前に、一回ちゃんと泣かされる。山下さん。(略)軽(かろ)みでもって最後まで駆け抜けた先達には「かばん」だと杉﨑恒夫がいるし、口語の抜け感では岡井隆、暗喩の質感だと平井弘、「この人は本当に、どういうつもりなんだろう」の楽しさからはしんくわが連想される。(略)なんて厄介なものを置いていったんだ」

─────────伊舎堂仁(栞より)

 

 

2024年11月発売予定です。

 

【栞】

伊舎堂仁「二周目の前に」

坪内稔典「はははぽちゃぽちゃ」

 

【収録歌より】

この星に投身をする少女のように海底へ降りてゆくレジ袋(題詠: 塵も積もれば山となる)

水銀の海に溺れてユニクロの試着室から出られぬアリス(題詠:鏡)

これは食べ物ではありません口から溢れだす倫理です

ないよりはだいぶいい虫コナーズ ぶらさげているヒロシマの鐘

ふらふらと母飛んできて蛍光す説明ばかりの映画みたいに

 

【目次】

Ⅰ 世界同時かなしい日に

世界同時かなしい日に

浜辺 で、蛸になる(抄)

プラスチックの米櫃のなかで(抄)

Ⅱ 世界同時晴れた日に

昭和レジデンス

ぷぷプリン体

そんなところがキライ

ぬらりひょんと一緒

ロング・グッドバイ

太陽政策

緘黙教団 We selected a mass suicide

エリー・マイラブ

2040年

ビーマイベイビー

あらかわ遊園

この国は賛同しません

Ⅲ 新しい戦争がはじまる

新しい戦争がはじまる

エビデンスがほしいんだよ

スワンボート水没ちゅう

もうすぐですね

きょうも新聞はお休みです

カンナとゴジラ

ローカルな話しで恐縮ですが

世界同時晴れた日に

Ⅳ ジンタカタッタカタン

ジンタカタッタカタン

魚の目に花粉症

レーゾン・レプリカ

コロナの星でおぼれる

あるある公園で

エレーンは元気ですか

武勇でんででんでんでん

東京天使病院

お取り寄せの世界

Ⅴ 舟を出す日に

サフラジェット記念日

スーパームーンの夜に

キューちゃん

スーパーアルプスで買い物をした夜にキミと話した

ただしい資本主義について

ぎなのこるがふのよかと

無呼吸症候群の夜

やがて(外付け)

カラフルペイント

舟を出す日に

増強・増強・増強

Ⅵ 全世界同時夕焼け

赤いハンカチの王国

勝鬨橋から

鳥は川面をわたって

お持ち帰りにします

この星に

全世界同時夕焼け

 

『あふりかへ』抄

『スーパーアメフラシ』抄

出典一覧

編者あとがき(飯島章友)

山下一路略歴

 

【著者プロフィール】

山下一路(やました・いちろ)

1950年3月14日生。中央大学在学中に全共闘に参加。闘争中なだれ込んだ校舎の壁に大書された福島泰樹の短歌を見たことが短歌との出会いとなった。氷原短歌会に参加。1976年に第一歌集『あふりかへ』(視原社)刊行。その後は企業戦士となって夜討ち朝駆けの生活を送る。50代なかば、過労によるものか心身を患い退職。短歌を再開。2006年10月号から「かばん」に参加。「かばん」を活躍の場としつつ、並行して2013年にはスワンの会にも参加。また、岡井隆の講座にも通うなど研鑽に努め、独自の表現を究めていく。2017年に『スーパーアメフラシ』(青磁社)刊行。2023年3月28日脳梗塞で緊急搬送され、4月9日永眠。享年73。