『カメラは光ることをやめて触った』
我妻俊樹
四六判、並製、224ページ
定価:本体1,900円+税
ISBN978-4-86385-569-4 C0092
装丁:山田和寛+佐々木英子(nipponia)
栞文:瀬戸夏子、平岡直子
夏の井戸(それから彼と彼女にはしあわせな日はあまりなかった)
我妻俊樹の短歌を初めて集成する待望の第一歌集。
誌上歌集「足の踏み場、象の墓場」から現在までの歌を含んだ唯一無二の686首。
わたしがポストニューウェーブ世代でもっとも影響を受けた歌人は我妻俊樹だ。
この歌集を前にして、可能な限り無力な読者として存在してみたかった、と思った。
──────瀬戸夏子
心がないものにこそ心があると思うから、こういう歌だけを信じられる。
我妻さんの歌は、無数の蛍が放たれた小さな暗がりのようで、一首の歌がいくつもの呼吸をしている。
──────平岡直子
2023年3月下旬発売。
【収録歌より】
名刺だよ 髪の毛を切って渡すと私のことに気づいてくれる
秋が済んだら押すボタン ポケットの中で押しっぱなしの静かな神社
渦巻きは一つ一つが薔薇なのに吸い込まれるのはいちどだけ
ガムを噛む私にガムの立場からできるのは味が薄れてゆくこと
橋が川にあらわれるリズム 友達のしている恋の中の喫茶店
【目次】
Ⅰ カメラは光ることをやめて触った
喫煙する顔たち
偶然はあれから善悪をおぼえた
窓をみせる穴
どちらも蜘蛛の巣の瞳
花瓶からきこえてくる朗読
学園への執着
その緑地
カメラは光ることをやめて触った
サマーグリーン
星に見えない何か
猛獣
ポップアップ殺し
ストロボ・ストロンボリ
小鳥が読む文章
想像
水中を去れ、空中が受けとめる
夜の二十四時間
飴玉がとけるという通信
ビター・キャンディ・オークション
愛唱性
Ⅱ 足の踏み場、象の墓場
きみが照らされる野草
貝殻と空き家
窓を叱れ
大きなテレビの中の湖
美談
完璧な野宿
よろめきとして
光る旅
ある県立
煙る脚
皮膚
森へ映ろう
午前2時に似ている
神社+神社
いらない炎を顔につけて
【栞】
瀬戸夏子「それなのにまばたきの」
平岡直子「わたしはみることをやめてみられた」
【著者プロフィール】
我妻俊樹(あがつま・としき)
1968年神奈川県生まれ。2002年頃より短歌をはじめる。2003年から4年連続で歌葉新人賞候補。2008年、同人誌「風通し」に参加。平岡直子とネットプリント「ウマとヒマワリ」を不定期発行。2016年、同人誌「率」10号誌上歌集として「足の踏み場、象の墓場」発表。2005年に「歌舞伎」で第3回ビーケーワン怪談大賞を受賞し、怪談作家としても活動する。著書に『奇談百物語 蠢記』、〈奇々耳草紙〉シリーズ、〈忌印恐怖譚〉シリーズ(いずれも竹書房文庫)など。その他共著に『kaze no tanbun 特別ではない一日』『同 移動図書館の子供たち』(柏書房)、『平成怪奇小説傑作集2』(創元推理文庫)、『ショートショートの宝箱』(光文社文庫)、『てのひら怪談』(ポプラ文庫)など。
書評など
2023/7/9 朝日新聞 朝日歌壇コラム「うたをよむ」 見慣れた世界が反転 評者=平岡直子さん
《この歌集には一貫して声なき者にマイクをまわそう、という意識が感じられる》《見慣れた世界がひっくり返る感覚をなんどでも味わわされる一冊》
2023/7 現代詩手帖8月号 「うたいこがれる」 受難のあかるさの水鏡 評者=笠木拓さん
《夢の縮尺で描かれた我妻の短歌には、どこかその常識の特権性を疑わせる力がある》
2023/6 短歌研究7月号 書評「歌の多面性」 評者=棚木恒寿さん
《多面性がきらめく、注目すべき一冊》