書籍

『そこまでして覚えるようなコトバだっただろうか?』松波太郎

『そこまでして覚えるようなコトバだっただろうか?』
松波太郎

四六、上製、320ページ
定価:本体1,900円+税
ISBN978-4-86385-576-2 C0093

装丁 佐藤亜沙美
装画 平井豊果

 

────コトバとも分かり合えない著者真骨頂の四篇

たった一音が発音できずに自国から疎外された〝クィ〟が望む真の「故郷」
サッカーからヒトの起源にまで自国をとび出し還っていく「イベリア半島に生息する生物」
ひらがな、カタカナ、漢字……アトラクションさながら文字を乗り越えていく「あカ佐タな」
〝お金を払ってまで覚えないといけないようなモノだっただろうか?〟著者デビュー作「廃車」「LIFE」に登場した猫木豊が子の国語習得の前で立ちつくす「王国の行方――二代目の手腕」


【書評より】
「故郷」
日本語の音声体系を問い、音自体の微細な異なりに集中させる手腕が見事。自分が生まれたのではない言語の中に故郷を見出そうとするクィの姿は母語の外に出る旅はこのような形でもはじまるということを鮮烈に示した。言語をめぐる確かな手応えのある手腕が素晴らしい
(岩川ありさ「文學界」)

その試みが最良かつ最善の姿で昇華されたのが「故郷」と題された一作だろう。冒頭の数ページのぎこちないやりとりの理由も含め、タイトルの意味を理解したときには思わず立ち上がって声をあげてしまった
(倉本さおり「文藝」)

松波さんは、最初にも言いましたけど、どんどんおかしな方向に向かっていることは間違いない。「クィ」が登場するときに、謎の生き物誕生みたいな話になっているところも面白い。それがだんだん人間の形をとっていくわけだけど、最初はもっと不定形の、よくわからない生き物みたいなのに、いつの間にか語り手の分身のようになって展開していきます
(佐々木敦「群像」)

最後、滑舌の悪い者たちによる、輪郭がぼやけたままの、身体感覚をともなった言葉の応酬に感動する。とても好き
(矢野利裕「文學界」)


「イベリア半島に生息する生物」
 松波氏は言葉によってエロス的な身体性を表象にするのに成功しているんだよね。しかも、自分の身体がリビドーに乗っ取られている感じも、かなりキテいる。「頭部はもちあがりたがる。頸部がのびたがる。」なんて書かれているところはまさにそうでしょう
(池田雄一「図書新聞」)


「あカ佐タな」
かな、カナ、漢字、画数、部首、音、アルファベットに記号。人の体の内外で言葉が形を変えていく、目にも楽しい奇妙な短篇は特集「ことばとからだ」のための書き下ろし。これが手書きなのか! という驚きが、この作家の作品を読むたびにずっとついてくる
(鳥澤光「文學界」)


「王国の行方――二代目の手腕」
もっと複雑で豊かな「先」がある。それを想像=創造する自由がある。前作(「カルチャーセンター」)につづき、よい小説を読んだ
(川口好美「週刊読書人」)

 

2023年5月中旬発売

 

【著者プロフィール】
松波太郎(まつなみ・たろう)
1982年三重県生まれ。文學界新人賞、野間文芸新人賞受賞。著書に『よもぎ学園高等学校蹴球部』、『LIFE』、『ホモサピエンスの瞬間』、『月刊「小説」』、『自由小説集』、『本を気持ちよく読めるからだになるための本』、近著に『カルチャーセンター』。

書評・掲載情報

日本経済新聞(6/22)夕刊 「目利きが選ぶ3冊 今週の3冊」 評者=陣野俊史さん

《この身体と意識の離反には、小説にしかできない甘美な企みがある》

毎日新聞(6/28)夕刊 文芸時評6月「正常を複数化する挑戦 文字的思考の外へ」 評者=大澤聡さん

《世界と私たちを隔てている言葉や文字へと読者の視線を差しむける。正常の外側、別様の世界を考えさせる。しかも言葉や文字を「書く」ことでしかそれはなしえない。このジレンマへの直視こそが作新に強度を与える》

東京新聞(10/7)・西日本新聞(11/11)「実験的な筆致に切実さ込め」 評者=豊﨑由美さん

《実験的な筆致をとっているのに、切実な思いに直結してくる。松波太郎だから書ける4篇》