書籍

『耳の叔母』村田喜代子

『耳の叔母』
村田喜代子

四六、上製、240ページ
定価:本体1,700円+税
ISBN978-4-86385-547-2 C0093

装丁:毛利一枝

 

怖れと闇と懐かしさ
ムラタワールドの「短編愛」

短編はコロコロと手の上で転がしながら考える。
うまく芽がでてすくすく伸びると、やがてひとつの「話」がひらく。

芥川賞作家、村田喜代子の選りすぐりの短編8編を収録。

美とおののきの短編アンソロジー。

 

「女の子って、夜見るとなんだか気味悪いな」とつぶやいた。蛍見物の人の群から離れて、わたし達は明滅する火に囲まれていた。それらの火は、わたしが「消えろ」と心に思うと消え、「点いて」と思うと本当に点くような気がした。わたしは沢山の蛍を従えて、タケオの前に立っているのだった。「あたしがこわいの?」  ――「流れる火」より

 

2022年10月全国書店にて発売予定です。

 

【著者プロフィール】

村田喜代子(むらた・きよこ)

1945(昭和20)年、福岡県北九州市八幡生まれ。1987年「鍋の中」で芥川賞を受賞。1990年『白い山』で女流文学賞、1992年『真夜中の自転車』で平林たい子文学賞、1997年『蟹女』で紫式部文学賞、1998年「望潮」で川端康成文学賞、1999年『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞、2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、2014年『ゆうじょこう』で読売文学賞、2019年『飛族』で谷崎潤一郎賞、2021年『姉の島』で泉鏡花文学賞をそれぞれ受賞。ほかに『蕨野行』『光線』『八幡炎炎記』『屋根屋』『火環』『エリザベスの友達』『偏愛ムラタ美術館 発掘篇』など著書多数。

掲載情報

東京新聞(11/26)

《校庭に造られた池のような仮説トイレの話、不在の友人とオートバイを走らせる少年の話、舅の三回忌に披露された手帳の話。と要約するだけでは何も伝わらない。ぐいっと手荒く物語に引きずり込む力が一編一編に漲っている。(……)八〇年代後半から二〇〇〇年代後半にかけて文芸誌に発表されたこれらの短編は、『鍋の中』や『鯉浄土』などに収録されている。新たに編まれたことで、さらなる生命力を発揮しそうだ》

読売新聞(12/17)

《表題作含め、想像力で現実と幻想を交錯させる世界にひたることができる》

図書新聞2月号 評者=中沢けいさん

《短編集『耳の叔母』はどの作品を読んでも言葉の滋味と言うものが、じっくりとしみ込んでくるもので構成されている。〈中略〉ゆるやかな流れの中で生み出された言葉は独創的でありながら、誰しもが感じていたに違いないことを言い当てている。そして読者はなんとなく言葉にならなかった感覚が言葉として結晶する喜びを味わうことができる》

毎日新聞(2023/2/25) 今週の本棚 評者=小島ゆかりさん

《読後、言葉を忘れる》