翻訳詩集、日本初出版
2010年ノーベル平和賞受賞作家の詩集、日本初出版
『詩集 牢屋の鼠』
劉暁波/著 田島安江・馬 麗/訳・編
原書:「劉暁波劉霞詩選」劉暁波、劉霞(夏菲爾出版有限公司)
四六、並製、264ページ
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-86385-139-9 C0098 2刷
第一回日本翻訳大賞、二次選考対象作品に選ばれました
2008年以来、11年の刑で服役中の劉暁波については、思想家として多くの報道がなされているが、劉暁波の詩の中にこそ、彼の本質が色濃く反映されているのではないか。愛とはなにか、平和とは、心の安寧とはなにか。彼が提示するのは、とてもシンプルで、強い、愛のまなざし。彼の詩に触れることは世界のかなしみに近づくことではないだろうか。
<訳・編者より>
骨がきしむほどの愛の詩
劉暁波の詩の翻訳に取りかかってまもなく、わたしはひとり、北京と長春を訪ねた。彼が過ごした場所を知りたかった。天安門広場には人々があふれ、中国全土の天地水明の地が大きなビジョンに映されていた。かつてこの広場で多くの若者の血が流され、一夜にして、流血の痕跡は跡形もなく拭われ、何ごともなかったかのように観光客が訪れる場所へと変化していったことを、そして、いまだ多くの行方不明者がいることを、ここにいるどれぐらいの人が知っているのだろうか。
劉暁波の詩を深く知ることで、彼の詩を通して、彼のかなしみを通して、世界のかなしみに近づくことができるのではないか。(田島安江)
著者プロフィール
劉暁波(リュウ・シャオボ/Liu Xiao Bo)
1955年12月28日吉林省長春市生まれ。
1969年から1973年まで両親が文化大革命で下放され、内モンゴルに住む。1977年吉林大学中文系に入学、1982年、文学学士の学位を取得。1984年北京師範中文系修士課程修了、文学修士の学位を取得、教職に就く。1988年、同大学にて文学博士の学位を取得。
2008年12月8日「08憲章」起草の中心人物とされ、「国家政権転覆扇動罪」で2010年2月9日二審判決、刑が確定した。2010年10月8日ノーベル平和賞受賞決定。12月10日に本人不在のまま、授賞式が行われた。
日本語訳著書に『現代中国知識人批判』(徳間書店1992)、『天安門事件から「08憲章」へ』(藤原書店2009)、『最後の審判を生き延びて―劉暁波文集』(岩波書店2011)がある。
詩集は『劉暁波劉霞詩選』(香港・夏菲爾國際出版公司2000. 9)のみ。
訳者プロフィール
田島 安江(たじま・やすえ)
1945年大分県生まれ。福岡市在住。書肆侃侃房代表。
既刊詩集『金ピカの鍋で雲を煮る』(花神社1985)
『水の家』(書肆侃侃房1992)
『博多湾に霧の出る日は、』(書肆侃侃房・2002)
『トカゲの人』(書肆侃侃房・2006)
『遠いサバンナ』(書肆侃侃房・2013)
詩誌「侃侃」同人「something」編集人
もくじ
Ⅰ 蟻が泣いている
Ⅱ 肖像
Ⅲ 世界を深く刺すナイフ
Ⅳ ホコリと一緒に僕を待つ
Ⅴ ひとつの品詞から始まった驚愕
劉暁波の詩を通して、世界のかなしみに出会う 田島安江
詩
牢屋の鼠
一匹の小さな鼠が鉄格子の窓を這い
窓縁の上を行ったり来たりする
剝げ落ちた壁が彼を見つめる
血を吸って満腹になった蚊が彼を見つめる
空の月にまで魅きつけられる
銀色の影が飛ぶ様は
見たことがないぐらい美しい
今宵の鼠は紳士のようだ
食べず飲まず牙を研いだりもしない
キラキラ光る目をして
月光の下を散歩する