書籍

『四隣人の食卓』  ク・ビョンモ

Woman's Best 10 韓国女性文学シリーズ7
『四隣人の食卓』네 이웃의 식탁
ク・ビョンモ 著
小山内園子 訳

四六、並製、200ページ
定価:本体1,600円+税
ISBN978-4-86385-382-9 C0097


「家族」「隣人」「自然」「共同体」という、
あたたかで豊かなはずの言葉が寒々しく感じられた。
それが本当の現実であることを、私は知っている。

――チョ・ナムジュ(小説家・『82年生まれ、キム・ジヨン』著者)

 

無理をして、我慢して、完璧を目指して、
結局悪い方に向かってしまう。
けれど密かに、静かに、マグマは猛ってる。
これは私たちの物語。
――深緑野分(小説家)


 

「ようこそ! 夢未来実験共同住宅へ」
都心にギリギリ通勤圏内。他のコミュニティから隔絶された山あいに国家が建設したのは、少子化対策の切り札となる集合住宅だった。「入居10年以内に子供を3人もうける」というミッションをクリアすべく入居したのは、4組の夫婦。やがて、お仕着せの“共同体”は少しずつ軋みはじめる――。
奇抜な設定で、「共同保育」「家事労働」「労働格差」など韓国社会のホットで深刻な現実を描き出していると話題を呼んだ作品。2018年韓国日報文学賞候補作。

※試し読みはこちら


2019年10月中旬全国書店にて発売。


【著者プロフィール】
ク・ビョンモ(具竝模)
慶煕大学国語国文学科卒業。2008年、長編小説『ウィザード・ベーカリー』でチャンビ青少年文学賞を受賞し、作家活動を始める。ほかに長編小説『一さじの時間』『えら』『破果』『バード・ストライク』、短編集に『それが私だけではないことを』(今日の作家賞、ファン・スンウォン新進文学賞受賞)、『赤い靴党』『ただ一つの文章』など。邦訳に「ハルピュイアと祭りの夜」(『ヒョンナムオッパヘ』白水社)がある。
リアリズム小説、SF、ファンタジーなど、ジャンルを超越した多彩な作品を発表し続けている。


【訳者プロフィール】
小山内園子(おさない・そのこ)
NHK報道局ディレクターを経て、延世大学などで韓国語を学ぶ。訳書に、姜仁淑『韓国の自然主義文学』(クオン)、キム・シンフェ『ぼのぼのみたいに生きられたらいいのに』(竹書房)、チョン・ソンテ『遠足』(クオン)、『私たちにはことばが必要だ』(共訳、タバブックス)など

 

 

チョ・ナムジュさんから推薦文をいただきました。

狭いながらも楽しい我が家!

スイートホーム。そこは空気がおいしく水清らか、簡単には入ることも出ることもできない隠れ里。うちの子もよその子も分けへだてなく
抱き、愛情を注ぎ、責任を持ち、世話をする極限の育児共同体。
こぢんまりとこぎれいな新築の共同住宅の薄い壁のあいだから、内臓が露出するかのごとく暴かれる私生活。小説を読んでいるあいだじゅ
う、「家族」「隣人」「自然」「共同体」という、あたたかで豊かなはずの言葉が寒々しく感じられた。
それが本当の現実であることを、私は知っている。
妻は家事に育児に経済活動に嫁の役割まで背負いこんでふらふら、なのに夫はよその女にちょっかいを出し、ここは本当にスイートホーム?
いま他人事のように笑っているあなたのお宅は、本当にスイートホームですか?

――チョ・ナムジュ(小説家)

 

書評

「統一日報」2019年11月20日
《物語は4組目の家族が入居し、その食卓で歓迎会が開かれる場面から始まる。今後の穏やかならざる展開を読者に予想させるには充分な状況であり、トラブルもいろいろと思い描くことができる。やがて、ぐいぐいと作品の世界へ引き込まれ、現実との境が曖昧になる。あまりにもリアルな心理描写のためか。自分でも覆い隠している内面が、分子レベルに分解される気分だ。うまく保っているはずの社会性だが、他者に迎合できない感情が異物となって蓄積される》

「サンデー毎日」2019年12月8日増大号 評者=木村衣有子さん
《えがかれる封建的な世間の有り様は日本とそっくりだ。時折登場する、韓国ならではの食べものや風習以外は、全くもって他人事とは思えない。物語の後半、この暮らしにくたびれきったひとりが夢想する、いかにも適当なごはんに、やけに惹かれる》

「週刊文春WOMAN」創刊1周年記念号 評者=斎藤真理子さん
《とにかく超嫌味な人々が登場し、藪蛇が100匹くらいいるような場面が続く(笑)。でも、他の家族と接するうちに、夫婦仲がじりじりとこじれていったりする描写に、すごくリアリティーがある。身につまされつつ、自分の生きる現実もあぶりだされるような物語です》

「東京新聞」2020年1月5日 評者=野崎有以さん

《悶々と過ごす日々のなかで、建前と化した理想をとるのか、それとも本当に大切なものを守るのかの選択を徐々に迫られていく》

「北海道新聞」2020年1月5日 評者=キム・ミンジョンさん​

《精神的なダメージを与える隣人たちの言葉に背筋が凍る一種のホラー小説である》

「ふぇみん」2020年2月25日
《4家族間、夫婦間、子ども間にも横たわる権力関係や抑圧、その心情がこれでもかと暴き出される》

「anan」2020年9月23日号 評者=瀧井朝世さん
《“たかがこれくらいは見過ごしておこう…”という違和感や不快感が、やがて耐えられないものになっていく状況は、きっと、誰しもにおぼえがあるのではないでしょうか》

シティ情報ふくおか6月号 オススメ韓国文学として紹介 松岡千恵さん(ジュンク堂書店)