書籍

『春の宵』 クォン・ヨソン

Woman's Best 7 韓国女性文学シリーズ4
『春の宵』 안녕 주정뱅이
クォン・ヨソン 著
橋本智保 訳

四六、並製、248ページ
定価:本体1,800円+税
ISBN978-4-86385-317-1 C0097

装画 佐藤ゆかり
装幀 宮島亜紀

それは春の宵のようにはかなくかなしい

苦悩や悲しみが癒されるわけでもないのに
酒を飲まずにいられない人々。
切ないまでの愛と絶望を綴る七つの短編。


酩酊の先に見えてくるのは、ミルク色の濃霧のなかで浮かび上がってくる、あのときの、あの人との記憶。ここに描かれているのは、思い出したくはない、けれど、思い出す必要がある、それを抱えながら生きていなかければならない「私」の生の痕跡。

――窪美澄さん

(第2回出版社合同韓国文学フェアPOPより)

 

2018年6月中旬全国書店にて発売。

あらすじ

生まれてまもない子どもを別れた夫の家族に奪われ、生きる希望を失った主人公ヨンギョンが、しだいにアルコールに依存し、自らを破滅に追い込む「春の宵」。別れた恋人の姉と酒を飲みながら、彼のその後を知ることになる「カメラ」。アルコール依存症の新人作家と、視力を失いつつある元翻訳家が出会う「逆光」、十四年ぶりに高校時代の友人三人が再会し、酒を飲み、取り返しのつかない傷を負うことになる「一足のうわばき」など、韓国文学の今に迫る七つの短編を収録。初邦訳。

著者プロフィール

クォン・ヨソン(權汝宣)
1965年生。ソウル大学国語国文学科修士課程修了。1996年、長編小説『青い隙間』で第二回想像文学賞を受賞しデビュー。小説集に『ショウジョウバカマ』(2004年)『ピンクリボンの時代』(2007年)『私の庭の赤い実』(2010年)『カヤの森』(2013年)があり、長編小説には『レガート』(2012年)『土偶の家』(2014年)などがある。呉永壽文学賞、李箱文学賞、韓国日報文学賞、東里文学賞を受賞した。本書『春の宵』(原題『あんにょん、酔っぱらい』)は絶望と救いを同時に歌った詩のような小説と評され、2016年東仁文学賞を受賞、小説家50人が選んだ2016今年の小説、中央日報、ハンギョレ新聞の2016今年の本に選ばれた。

訳者プロフィール

橋本智保(はしもと・ちほ)
1972年生。東京外国語大学朝鮮語学科を経て、ソウル大学国語国文学科修士課程修了。訳書に鄭智我『歳月―鄭智我作品集』(2014年)千雲寧『生姜(センガン)』(2016年、共に新幹社)李炳注『関釜連絡船(上・下)』(2017年、藤原書店)朴婉緒『あの山は、本当にそこにあったのだろうか』(2017年、かんよう出版)などがある。

書評より

若さは廃れ、体は衰えていく。また酒を飲む。記憶は頼りにならないし、肉体は弱る。死の影が忍び寄る。暗く、不吉で、時には涙が出てくる。彼女は痩せた腕が折れそうなほど、ありったけの力をこめて弓矢を引く。遠い過去から、いまここに向けて。消えかかっている一世代の鎮魂曲が、僕たちの胸に突き刺さる。これほど生々しい痛みがあろうか!これほどの穢れなさがあろうか!
クォン・ヨソンの小説を読むと、韓国文学の深淵をのぞき見るようだ。鏃のように鮮烈な言葉は青光り、誰も行ったことのない深いところに僕たちを導く。この驚くべき思し召しは、血を流すイエスのように崇高だ。だからいつまでもその声を聞いていたくなる。はるか記憶の彼方から聞こえてくる声を忘れるな。お願いだ!
(チョン・ミョングァン 小説家)

目次

春の宵
三人旅行
おば(イモ)
カメラ
逆光
一足のうわばき

書評

「おうち韓国」2020年9月15日号

《人生の厳しい悲哀を経験した“酔っぱらい”にしか与えられない慰めと、そのような時でも失われない尊さが、登場人物たちからは感じられます》

「週刊朝日」2020年12月4日号

《苦悩や悲しみが癒やされるわけでもないのに酒を飲まずにいられない人々。春の宵のようにはかなく、切ないまでの愛と絶望を綴る七つの短編集》

CREA 2021年夏号 評者=村上陽子さん(SHIBUYA PUBLISHING&BOOKSELLERS)

《野外で飲むお酒に酔いしれる本》