書籍

『〈家庭の天使〉を殺す時間――ジェンダーの視点で読み解く日本ミステリ史』

『〈家庭の天使〉を殺す時間――ジェンダーの視点で読み解く日本ミステリ史』
二沓ようこ

四六判、並製、320ぺージ
定価:本体2,200円+税
ISBN978-4-86385-737-7 C0095

装幀 毛利一枝
カバー作品 塩田千春「どこかにいる私」

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はじめに

ミステリ史の「死角」を撃つ 

ヴァージニア・ウルフは、女性作家にとって最大の困難は、
〈家庭の天使〉を殺すことだったと述べた。
「家庭という名の〈密室〉」に潜む、女性たちの叛逆。
かつて女性は社会の〈周縁〉であり、探偵小説もまた、
文学の〈周縁〉だった――。

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戦後女性探偵作家たちはなぜペンを執り、なぜ消えたのか?
ジェンダーの規範に挑戦し、既存の枠組みでは回収しきれない「社会の歪み」を炙り出した彼女たちの探偵小説は、抑圧に対する切実な〈抵抗の文学〉だった――。
忘れられた先駆者たちの足跡を丹念に辿り、日本ミステリ史の空白を埋める渾身の文芸批評。

2026年8月中旬発売

【著者プロフィール】
二沓ようこ(にとう・ようこ) 
福岡市中央区在住。文芸批評、エッセイを新聞・雑誌に多数連載。「文学批評 敍説」所属。日本詩人クラブ会員。福岡県詩人賞、福岡市文学賞(評論部門)受賞。
詩集『火曜サスペンス劇場』(ミッドナイト・プレス刊)
『夏樹静子と福岡』(福岡市文学館刊)


【目次
はじめに

序章 「孤独な自転車乗り」――男性原理のミステリ小説の系譜
シャーロック・ホームズ譚から『容疑者Xの献身』まで

「孤独な自転車乗り」について
「自転車乗り」を監視する男
「自転車乗り」の風上にも置けない女
「自転車乗り」は女には向かない?
「自転車乗り」の遺伝子

第一章 レジスタンスとしての探偵小説――深尾登美子
はじめに――「女には向かない職業」
「女性読者の皆様へ」
探偵小説専門誌『宝石』
家制度に対するレジスタンス――「足音」
「癩予防法」の落とし子として――「天使にはなれない」と『砂の器』
性的マイノリティの葛藤――「湖に死す」
身体への違和、制度への不適合――「瓶詰の女」
消えた探偵作家―探偵小説文壇における〈紅一点〉
「幻の探偵作家」深尾登美子を探して
おわりに――幻想としての制度

第二章 子宮という〈密室〉、あるいは戦場――四季桂子
はじめに――〈周縁〉的存在としての女性と探偵小説
1 女による〈豚殺しの物語〉
2 女による〈男殺しの物語〉
はるかなるエロス
森崎和江「無名通信」との共鳴
〈男殺しの物語〉
3 女による〈子殺しの物語〉
探偵小説「胎児」の概要
旧「優生保護法」
子宮という〈密室〉
仕組まれた〈罠〉
〈亡霊〉の正体
おわりに――女性と探偵小説の「随分密接」な関係

第三章 自己実現としての〈団地マダム殺し〉――大貫進こと藤井禮子
1 大貫進こと藤井禮子の生涯
福岡市出身の藤井禮子
ミステリ界の当時の状況
『宝石』デビュー
夏樹静子らと共に、第六回「江戸川乱歩賞」最終候補
男性ネームで再デビュー
隠れて書いた作品で、第五回「宝石短編賞」受賞
主婦の本分
『宝石』最後の新人
探偵作家としての感性
第二回「双葉推理賞」受賞と、その後
「タブー 8」
「幻の探偵作家」と呼ばれて
2 夢のマイホーム
「現代住宅双六」
団地への憧れ
マイホームの夢「郊外のこぎれいな団地」
静子の夢
3 専業主婦の空虚な日常
静子の肖像
専業主婦の空虚な日常
専業主婦の自己実現としての犯罪
ベティ・フリーダン『女らしさの神話』との同時代性
4 恩師の証言――女がものを書くということ

第四章 彗星のごとく現れて消えた、謎の大型新人――松原安里こと松原一枝
はじめに――謎の新人現る
1 松原安里とは何者だったのか
異例ずくめのデビュー
松原一枝の「妹」?
松原姉妹の足跡を辿る
「松原安里」の正体
無名作家時代
『宝石』誌上座談会
デビュー前夜
色褪せた『宝石』
幻の「日本のクリスティ」
2 「ミセス・カミングス殺人事件」に於ける占領期の人種問題
おわりに――霧の向こうから

第五章 〈家庭の天使〉を殺す時間――夏樹静子
はじめに――惑わす時間
ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』について考察する時間
〈家庭の天使〉を殺す時間
おわりに――〈家庭の天使〉の幻影を見たエラリー・クイーン

あとがき