- 2011-11-06 (Sun) 02:45
- 総合
“Sanctuary” の登場人物は、子連れの妻と結婚した中年の気弱な弁護士のベンボウ、不幸な生い立ちから屈折した性癖を持つ無頼漢のポパイ、ポパイとともに密造酒を手がけている退役軍人で前科のある男グッドウィン、その内縁の妻のルービー、わがままなお嬢様育ちの大学生でポパイの毒牙にかかり、売春宿に幽閉される判事の娘のテンプル。
事件はテンプルがボーイフレンドの一人のだらしない大学生とドライブの途中、密造酒が飲みたくなった大学生が顔なじみのグッドウィンたちが住む廃屋のような屋敷に立ち寄り、ポパイがテンプルに目をつけることから始まる。ポパイはテンプルを連れて逃亡する際に、仲間の一人を無慈悲に殺害する。ルービーは事件を保安官に通報するが、保安官はグッドウィンを事件の犯人として逮捕する。グッドウィンとの間にできた乳飲み子を抱えたルービーへの同情の念もあり、ベンボウは無実のグッドウィンの弁護を引き受ける。ベンボウは事件の真実を知るテンプルの存在を突き止めるが、肝心の彼女は事件はグッドウィンの犯行と偽証する。裁判の中で屋敷から逃げ出す前に、テンプルがトウモロコシの穂で凌辱されたことも明らかにされ、グッドウィンは町の人々の一層の憎しみを買い、リンチに遭って惨死する。この凌辱行為も性的不能者のポパイによる蛮行なのだが。
ポパイはテンプルを幽閉した売春宿でテンプルとの性行為の相手をさせていた男も殺害する。彼は二人の性行為をベッドのそばで見て倒錯した喜びを感じていたような男だったのだ。ポパイは最後に無関係の警察官殺人事件で逮捕され、絞首刑となる。小説の後半になって、彼がなぜ、性的不能で、残忍な性格の男になったのか推察できる生い立ちが明らかにされる。4歳になるころまで歩くことも話すこともできなかったこと、体がとても弱く、医者が定めた以外の食べ物を食べようものならひきつけを起こすような子供だったこと。医者からは「この子は決して男に成長することはないだろう。ある程度の年齢まで生きたとしても、精神的な年齢を重ねることは無理だろう」と宣告されるような少年だった。
この小説では、読んでいて「肩入れ」することができる人物は一人も登場しない。弁護士のベンボウにしても、グッドウィンがリンチで殺害されることを阻止できず、敗訴後、お互いに愛情があるとは思えない妻のもとにすごすごと帰っていくような男だ。しいて挙げれば、グッドウィンの内縁の妻のルービーには憐みの感情を禁じえなかった。
次の一節はフォークナーのユーモアか。金のないルービーはグッドウィンの弁護に取り組むベンボウに弁護費用を払えない。それで女である自分の体を提供することをほのめかす。そうなったとしても構わない、事実、あたしは過去にそうやってあの人を救ってきたと語る。ベンボウはこの「申し出」を一蹴して諭す。”God is foolish at times, but at least He’s a gentleman. Don’t you know that?” (神様は時に愚かなことをするが、少なくとも神様は紳士だよ。そんなこと知らなかったのかい?)。これに対し、ルービーは答える。”I always thought of Him as a man.” (あたしはずっと神様は男だとは思ってきたよ)
(市庁舎そばにある作家の像が座すベンチ。1997年の建立と記されていた)