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ウィリアム・フォークナー(William Faulkner)③

  • 2011-11-05 (Sat) 08:53
  • 総合

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 オックスフォードを訪れた人はほぼ誰もがこの書店に足を運ぶことになるのだろう。「スクエアブックス」。リチャード・ハワースさんが営む書店で、フォークナーはもちろんのこと、ミシシッピ州出身の作家の本も広く扱っており、オックスフォードの情報発信基地のような存在だ。ダウンタウン中心部の広場を囲み、年齢層に合わせた三つの店を構えており、店内は広々と明るく、本に親しむ楽しさが伝わってくるよう。
 書店を訪ね、リチャードさんに声をかける。「ようこそ、オックスフォードへ。ところで毎週木曜の夕刻、私たちの店の一つで読書と音楽のユニークな集いを催しています。来てみませんか」と誘われた。「喜んで」
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 その木曜の夜。陳列図書を壁際に押しやり、空いたスペースに折り畳みイス150席を並べ、コンサート兼読書会のような催し。この夜はジャンルの異なる複数のバンドの演奏が披露され、地元に住む全国紙のコラムニストとノースカロナイナ州の作家が近著のさわりを朗読した。比較的年配の人たちが多かったが、それでも用意した150席はすべて埋まっていた。毎年春と秋の木曜夜にそれぞれ12回、このような集まりを催しているという。「オックスフォードがフォークナーゆかりの地であることで我々は恩恵を受けています。だから、多くの作家やアーティストがここに集ってきている」とリチャードさんは語った。
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 私はこの項の初回で「オックスフォードはこれまでに私が訪れた作家ゆかりの地でまず、ナンバーワンの地だ」とその居心地の良さを書いた。取材を進めると、この雰囲気を醸し出すのに大きく貢献しているのが、リチャードさんが1979年に妻のリサさんと店を開いたスクエアブックスであることが分かった。バーでこの夜出会った男性客は「オックスフォードはミシシッピ州の中でも例外的な都市です。ミシシッピ州は全米一の最貧州。州の南部に行けば、驚くような貧困があります。人種偏見もまだ色濃く残っています。オックスフォードは異例中の異例なんです」と語った。確かにミシシッピ州は南部州の中でも人種差別、偏見による血なまぐさい事件が起きた過去があり、ミシシッピ州という名を聞けば、複雑な思いを抱く米国人は少なくないように思える。
 私はここを去ったら、再びメンフィス経由で今度はルイジアナ州のニューオーリンズに向かうことにしている。ミシシッピ州の他の地区は残念ながら目にする機会がない。
 ミシシッピ州がそうした地だからこそ、フォークナーはミシシッピ州の架空の土地のジェファソンを舞台にして、作品を書き続けたのではないか。時代を同じくする作家の多くが海外も視野に入れた作品を描いた時、フォークナーは最後まで地元の大地に踏ん張り続けた。1931年の小説 “Sanctuary” (邦訳『サンクチュアリ』)もジェファソンを舞台に繰り広げられる悲劇で、爽やかな読後感など縁遠い作品だ。
 (写真は上から、「スクエアブックス」の店内。カウンターに立つ左の男性がリチャードさん。木曜夜に催される読書と音楽の集い。作家の朗読を聞くとその本を買い求めたくなった。集いが終わると、近くのバーで楽しくおしゃべり)

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