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J.D.サリンジャー(J.D. Salinger)③

  • 2011-09-21 (Wed) 02:43
  • 総合

 これまでの高校生活でただ一人自分を理解してくれると思われた若いアントリニ先生の家を訪ね、ホールデンが先生と交わす会話も興味深い。彼の行く末を案じる先生はいろいろとホールデンを諭す。先生はホールデンがすでにして「転落」の人生を歩んでいるのではないかと危惧する。30歳になるころには、どこかのバーで酒浸りになっており、入ってくるお客の誰に対しても嫉妬や敵意を抱くようなさもしい男になっているのではと。
 例えば、そのお客が自分通えなかったような大学で(花形スポーツの)アメフトをやっていたように見えるとか、あるいは、逆に例えば、正しい文法の英語表現では ”It’s a secret between him and me.” (それは彼と私との間の秘密なのです)というような場面で、”It’s a secret between he and I.” と語るようなお客だったりしたら。
 彼には10歳になる仲のいい妹フィービーがいる。なかなか大人びている妹で、深夜に泥棒猫のようにこっそり帰宅した兄が成績不振で高校を退学になったことを察知すると、六つも年上の兄を手厳しく追及する。お父さん(富裕な弁護士)が今回の退学を知ったら、お兄さんは殺されるわよ、お兄さんは人生で好きなことってあるの、いったい、将来は何になろうとしているの? ホールデンはたじたじとなりながらも、真剣に考え、通りで子供が口ずさんでいた歌(詩)を念頭に、将来は、広大なライムギ畑で遊んでいる大勢の小さな子供たちが崖から落ちないように見守っていて、落ちそうな子がいたら、キャッチするんだと答える。署名の “the catcher in the rye” がここで登場する。なかなか深い表現だ。
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 小説の末尾でホールデンとフィービーとのやり取りが描かれる。一人で家出するという兄についていくため、妹は昼食で帰った自宅から自分の衣服を詰め込んだスーツケースをひきずって来る。ホールデンは妹について来るんじゃない、午後の授業に戻れと諌めるが、妹は頑として聞き入れない。仕方なくホールデンは家出をしないことを妹に約束する。二人は回転木馬がある場所に歩き、ホールデンはフィービーに木馬に乗らせる。彼女は昔から木馬が大好きなのだ。仲直りした妹が乗る回転木馬を見ていると、バケツをひっくり返したような雨が降ってくる。雨に打たれながら、ホールデンはなぜか、幸福な気分に浸る。
 I felt so damn happy all of a sudden, the way old Phoebe kept going round and round. I was damn near bawling. I felt so damn happy, if you want to know the truth. I don’t know why. It was just that she looked so damn nice, the way she kept going round and round, in her blue coat and all. God, I wish you could’ve been there. (僕はフィービーのやつが木馬に乗って何度も何度も回っていくのを見ていて、突然とても幸せな気分になった。ほとんど叫びだしたいくらいだった。本当なんだ。とても幸福に感じたんだよ。なぜだか自分でも分からない。妹は青いコートを羽織っていて、何度も何度も回っているんだが、見栄えが抜群に良かった。ほんと、みんな一緒にいたらいいのにと心から思ったよ)
 (写真は、リバティー島からグラウンド・ゼロのあるマンハッタンの高層ビル群を望む。この写真ではそうでもないが、絵葉書のように美しい光景だった)

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