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ジョン・スタインベック(John Steinbeck)③

  • 2011-07-04 (Mon) 01:38
  • 総合

 スタインベックの作品は『怒りの葡萄』を始め、多くが日本語に翻訳されているようだ。国立スタインベックセンターの地下の資料室にも日本語の翻訳本が多数保管してあった。
 資料室で資料の整理、記録の仕事をボランティアで手がけていたハーブ・ベレンスさん(83)に話を聞いた。訪れた日は奥さんのロビーさんも隣で録音テープの文書化の作業に当たっていた。私の素朴な質問に「私は専門の学者ではありません。そこのところはご理解ください」と笑顔をたたえながら答えてくれた。
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 「スタインベックはアメリカ文学の中でどのような位置にいるのでしょうか?」
 「東海岸ではそうは読まれていないようです。批評家の中には彼が『怒りの葡萄』以外に手ごたえのある作品を残していないとか、regional(リージョナル、地方の)な作家であるとかと言って軽んじる向きもあるようです。でも、彼が20世紀の偉大な米作家の一人であることは疑う余地のないことです」
 「彼の作品は現在のアメリカでどんな意義があるのでしょうか」
 「ここには多くの読者から問い合わせのイーメールが届いており、彼の作品が今も共感を得ていることは間違いありません。『怒りの葡萄』が描いた1930年代の経済状況と現在の不況が似ており、彼の作品がより身近に感じられているという指摘もあります」
 私が『怒りの葡萄』で引かれたのは、作中主要人物のMaと呼ばれる母親だ。一家の柱はPaと呼ばれる父親なのだが、飢餓に見舞われた非常事態では、Maが大黒柱となり、一家離散の危機に瀕した一家の崩壊を封じ込める。実に「生活感」あふれるたくましい女性だ。避難した先で仕事も食べ物もなく、先が見えない疲労困憊の父親が嘆く。「どうやら俺たちの人生は終わったみてえだな」と。(“Seems like our life’s over an’ done.”) 
 これに対し、Maは微笑みすら浮かべてそんな弱気を一蹴する。「いや、そんなこたないよ。まったくない。お前さん、女には分かるんだよ。これも男との違いの一つだよ。いいかい、よくお聞き。男は役立たずだよ。男はおぎゃあと生まれてそして、老いてくたばる。それこそ役立たずだ。農園を手に入れて、それを手放す。それも役立たずだ。女は違う。あたいたちは延々と続くんだよ。せせらぎのように、渦巻きのように、滝のように。そいでもってあたいたちは川になるんだよ。いつまでも流れが絶えない。女はそんなふうに物事を考えるんだよ。あたいたちは死に絶えなんかしないよ。人はずっと生きていくんだよ。多少変化はするかもしれない、多分ね、でも、ずっと続いていくんだよ」
 “No, it ain’t,” Ma smiled. “It ain’t, Pa. An’ that’s one more thing a woman knows. I noticed that. Man, he lives in jerks–baby born an’ a man dies, an’ that’s a jerk—gets a farm an’ loses his farm, an’ that’s a jerk. Woman, it’s all one flow, like a stream, little eddies, little waterfalls, but the river, it goes right on. Woman looks at it like that. We ain’t gonna die out. People is goin’ on—changin’ a little, maybe, but goin’ right on.” 
 (写真は、センターで資料整理の合間、応対してくれたハーブさん、ロビーさん夫妻)

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