- 2011-09-07 (Wed) 12:04
- 総合
ポーは「私には難解な作家だ」と書いたが、好きな作品がないわけではない。短編の “The Black Cat” (『黒猫』)はもともと猫が大好きだからというわけではないが、何回か読んだ(気がする)。
物語の語り手の私は「明日には死ぬことになっている身」であり、自分の心の重荷になっている事柄を明かそうとしている。私にとっては「ホラー」(Horror) 以外の何物でもないが、読者には「奇妙きてれつ」な話として映るかもしれないと警告した上で。
From my infancy I was noted for the docility and humanity of my disposition. My tenderness of heart was even so conspicuous as to make me the jest of my companions. (私は小さい時から従順でおとなしい性分だった。その優しさが際立っていたため、同じ年頃の男の子たちからはからかいの対象となっていた)
このような生い立ちの告白は作家の幼少のそれであろう。そうした性分からペットに目がなく、若くして結婚した妻も語り手と同様、動物好きで、二人は他のペットとともに一匹の黒猫を飼うようになる。大きくて賢く、真っ黒の猫だ。プルートと名付けられた黒猫は私にとても懐くのだが、私がやがて過度の飲酒から常軌を逸する乱暴な言動に出るようになると、プルートでさえ私を避けるようになる。
ある晩、いつものように泥酔した私は抱き上げようとしたプルートに指をかまれ、怒りの余り、プルートの片目をナイフで切り取る蛮行を犯してしまう。この蛮行に何らの良心の呵責を覚えなくなったころ、今度はプルートの首に縄をかけ、縛り首にしてしまう。悪いことだとは百も承知の上で。
その後、私は酒場で見つけたプルートによく似た黒猫を飼うようになるが、この黒猫が懐くにつれ、プルートを想起させずにはおかない黒猫に対し、不快感、やがては憎しみが募っていく。ある日、地下室に降りようとしていた私は黒猫が足にまとわりつき転倒しそうになる。怒りから手にしていた斧で黒猫に一撃を加えようとするが、妻に阻止される。今度はその妻に怒りの矛先を向け、斧で妻を殺害してしまう。
犯行後、私は妻の死体を地下室の壁の中に塗り込み、犯行を覆い隠す。犯行後4日目に何人かの警察官がやってきて、地下室を含めた家宅捜索をする。何の異常も認められず、地下室から立ち去ろうとする警察官に向かって私は「勝利」に酔いしれ、「この地下室の壁は強固そのものです」と語りかけ、妻を埋めた部分の壁を手にしていた杖でたたく。
すると、壁の中から、最初は子供の泣き声のような押し殺した声が、続いて人間のものとは思えない甲高い叫び声が聞こえてくるではないか。茫然自失の私が見守る中、その壁に走り寄った警察官の手により壁が壊されると、そこから現れたのは・・・。
(写真は上から、ポーが住んでいた家で行われている見学会。ここはポーがおそらく執筆に使っていた部屋。『黒猫』のモデル(?)になったとも言われる地下室。見学者を楽しませるために、おもちゃの黒猫が置かれていたが、十分ドキッとさせられた)
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