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セオドア・ドライサー(Theodore Dreiser)④

  • 2011-08-26 (Fri) 22:42
  • 総合

 ドライサーがシカゴで短期間とはいえ、住んでいたことを承知していた。何らかの「足跡」が残されていないものだろうかと探し回ったが、無駄足に終わった。
 ミシガン湖を望む中心部のミシガン・アベニュー沿いに、The Fine Arts Building という古いビルがあり、そこの一室で、1900年代初期にボヘミアン的雰囲気のアーチストたちが毎週定期的に集う、”The Little Room” と呼ばれる一室があったらしいことを知った。雑誌の編集の仕事をしていたドライサーも当時、常連だったとか。このビルを訪ねてみたものの、部屋のかつての名前を示すプレートがあるぐらいで、さすがに当時の様子を伝えるものは残っていなかった。ただ、ビルは1885年に建設され、今もアート関係のオフィスとして機能しており、10階の最上階天井に設けられた二つの古めかしい天窓(skylight)やホールの壁に掲げられている絵画などに、それらしい雰囲気を漂わせていた。
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 そもそも、ドライサーと聞いて、今のアメリカで特に若い世代ですぐに「ああ、あの作家ね」と反応する人にぶつかることは珍しいのではなかろうか。私はそんな印象を抱いている。The Fine Arts Buildingの隣にあるルーズベルト大学でアメリカ文学を教えるプリシッラ・パーキンス准教授にこの疑問をぶつけてみた。
 「確かにそういう傾向ですね。彼の代表作の”An American Tragedy ” はかなりの長編です。wordy (冗漫)とも言える。学生たちが読むのは一苦労ですね。第一、例えば大学で教える側が躊躇(ちゅうちょ)するかもしれません。結果的に学生たちが読むことが少なくなる悪循環に陥っているのでしょう」
 ”An American Tragedy ” が現代のアメリカで読まれる意義はないのでしょうか。
 「小説の意義は現代のアメリカにとっても衰えていないと思います。多くの若者が社会の階段を上ろうとして感じる失望感などは今も共通するものがあるでしょう。ただ、現代のアメリカだったら、起きえない展開が作品中に見られることも事実です。ロバートが妊娠したことでクライドは振り回されますが、(未婚女性の妊娠が珍しくない)今はちょっと想像しにくい展開かもしれませんね。クライドがお嬢様のソンドラと結婚することで出世を目論むくだりもそうですね。第一、今はソンドラのような女性だったら、ドライサーが描いたような”a social butterfly (派手で社交好きな人)ではなく、大学でさらにキャリアアップを目指すようになっていたのでは」
 それにしても、クライドには魅力のない主人公ですね。
 「ドライサーは当時隆盛だった、現実をありのままに描き出す自然主義の作家であり、この作品にもそれが顕著に示されています。ドライサーは個人的な主人公としてのクライドではなく、彼のような人物を生み出す、彼の時代の社会的、経済的、文化的な環境に関心があったのであり、それを描いているのです。結果的にクライドが深みのない人物像となっているだけです」
 (写真は、The Fine Arts Buildingの最上階。シカゴの「歴史」を感じる雰囲気が漂う)

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