- 2011-08-04 (Thu) 09:43
- 総合
“In Cold Blood”で印象に残っているシーンがある。文字通り、大団円の最終パラグラフだ。私にとっては、この部分だけでも、この小説に出合って良かったと思った。
最終章ではペリーとリチャードの二人が、1959年12月の逮捕以来、5年余の曲折を経て、1965年4月にようやく絞首刑に処される様子が描かれる。捜査の陣頭指揮に当たってきたアル・デューイ刑事も絞首刑を見守る。デューイ刑事は小説の中で事件の捜査に全力を注ぐ姿が描かれており、作家が彼に好感を持っていたことがうかがえる。
デューイ刑事は「ちんぴら」に過ぎないリチャードの処刑には特段の感情は起きない。しかし、続いて行われたペリーの処刑には複雑な思いを抱く。ペリーは傷つき、追われる動物が醸し出すオーラのようなものを持っていたからだ。
そのペリーは首に縄が巻かれる直前に次のような最後の言葉を口にする。「自分がやったことを(今ここで)謝罪するのは意味のないことだろう。適切でもない。でも、俺は謝りたい。俺は謝罪する」(”It would be meaningless to apologize for what I did. Even inappropriate. But I do. I apologize.”)。デューイ刑事には期待していた「一件落着」の高揚感や解放感はない。彼はその時、1年ほどまえにクラター一家が眠るガーデンシティの霊園を訪れた時の光景を思い出していた。
父親の墓参りが目的で訪れていたデューイ刑事はここで、事件の被害者の少女、ナンシーの無二の親友のスーザン(スー)に4年ぶりに再会する。彼女はナンシーの墓参りに来ていたのだ。4年前は少女だと思っていた彼女も今や大学に通う美しい娘に成長していた。立ち話の後、約束があるからと慌ただしく霊園を去る彼女に彼は優しく声をかける。
“And nice to have seen you, Sue. Good luck,” he called after her as she disappeared down the path, a pretty girl in a hurry, her smooth hair swinging, shining—just such a young woman as Nancy might have been. Then, starting home, he walked toward the trees, and under them, leaving behind him the big sky, the whisper of wind voices in the wind-bent wheat.(「スー、また会えて良かった。元気でね」と彼は立ち去って行く彼女に声をかけた。彼女はきれいな髪の毛を風になびかせ、きらめかせながら、急いで駆けて行く。ナンシーが生きていれば、まさに彼女のように成長していたことだろう。ほどなく、彼も木々の下を自宅に向かった。背後には空が大きく広がり、風に揺すられた小麦が波打ってささやき合っている)
この時の情景が目に浮かぶようだ。まるで一点の絵画を見ているような感覚に陥る。ちなみにこの霊園はValley View Cemeteryと呼ばれ、その昔ガーデンシティの開拓者の人々が乾いた土地に水を運び、木々を植え、大切に育んできたもので、ここに住む人たち誰もが誇りに思っている墓地だ。8月の陽光を浴び、緑が爽やかに映った。
(写真は上が、クラター一家が眠る墓。下が、ガーデンシティの市民プール。アメフトの競技場の大きさを誇る。久しぶりに泳いだついでに監視員のお嬢さんをパチリ)
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Comments:4
- 本部 2011-08-04 (Thu) 13:52
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アメリカをさるく旅も充実していますね。元気な様子に感嘆します!!
異郷に遊ぶ那須君に現実世界の話題で申し訳ないのですが、お尋ねしたいことがあります。『集落点描』の点訳を終わりました。口絵写真の説明で…「ようこそ向峠へ」とう案内標識を見て、さすがにほっとした気分になった…という文章の「 」の後は、トイウの誤植でしょうか?トウのままで良いでしょうか?教えてください。 - 岡林 2011-08-04 (Thu) 21:52
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「冷血」の町に行くと言うところから、それだけで胸が塞がり、固唾をのむ思いで読ましてもらっています。最後の引用が良かったですね。ほっと息を抜きましたよ。
30数年前インディアナ大学に留学しているときカポーティの講演を聴きました。講演といっても自作をぼそぼそと朗読しただけで、躯も小さく、とてもシャイな作家のイメージだけが記憶に残っています。 - nasu 2011-08-05 (Fri) 09:15
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本部さん ご指摘の件、お恥ずかしい。誤植です。点訳ありがとう。私には身に余ることです。それと、ブログも読んでいただき、これも感謝します。
岡林先生 そうです。最後に引用した文章を「紹介」したくてここに来たようなものです。先生が抱かれた印象はここの人たちが等しく語っている印象です。ありがとうございます。 - 本部 2011-08-05 (Fri) 09:26
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格調高く「~」とう…と書いたのかなあとも思いましたが、やっぱり誤植ですよね!
えらい力の入った「アメリカをさるく」ですが、楽しみに読んでいます。私には馴染みのないアメリカ名作の紹介に読書意欲をそそられます。『チャーリーとの旅』を早速買い求めました。