- 2011-08-17 (Wed) 09:29
- 総合
地元ハンニバルではトウェインはどう受けとめられているのだろうか。人口約1万7000人の小さな町だ。トウェインの「故郷」を見たくて訪れる観光客がハンニバルと周辺部で落とすお金は決して小さくはないだろう。事実、私がここに滞在した1週間余の間に、中高年層の夫婦や祖父母に連れられてやってきた孫の子供たちの姿を数多く見かけた。
しかしながら、ハンニバルも主要な通り沿いに空きビルが結構目立つ。地域経済がここでも苦境にあるのは容易に察することができる。ハンニバルで判事をしているロバート・クレイトンさんは「トウェインのおかげで観光業はある程度潤っていますが、ここにはこれといった基幹産業がない。歴史的にこの一帯を支えてきた水運も今はありません。雇用の場が増えないことには町のこれ以上の発展は望めません」と語った。
今回のトウェイン研究会を主催した博物館の館長、ヘンリー・スイーツさんは「博物館の来館者は年間5万から6万人で推移しています。これに、彼の作品に出てくる洞窟見学とかリバーボートの遊覧客を含めると、年間20万人から25万人がトウェインがらみでハンニバルを訪れていると私たちは見ています」と語る。「観光客の上位五か国はカナダ、英国、オーストラリア、ドイツ、それに日本です。世界中の読者から慕われるのは、やはり、彼の作品が人間の内面を描き、親しみやすいからだと思います。誰もが思い当たる内面の巧みな描写、それが時代を超えてアピールするのだと思います」
研究会のフィールドワークの一つで、作家が生まれた地であり、ハンニバルに転居後も伯父の農家があった関係で足繁く通っていたフロリダをヘンリーさんの案内で訪ねた時のことも忘れがたい。伯父の家は消失していたが、その家が立っていた場所に復元する作業が進められていた。復元作業の中心人物は70歳になる元教師で考古学者のキャレン・ハントさん。5年ほど前から、私費を投じて、農家があった土地を購入し、土に埋もれた農家の建築材などを発掘している。作業が順調に進めば、来年の夏にはトウェインが「アンクル・ダニエル」(黒人奴隷)の語る話が楽しみで訪れていた当時の農家が復元されているはずだ。
フロリダは作家が誕生した当時は100人程度の住民がいたが、現在は一人も住んでいない。私には緑豊かで落ち着いた暮らしができる絶好の土地に見えたが、仕事の場がないから、住民は転居していったのだろうか。②で紹介した、作家の生家が移転保存されている「トウェイン記念堂」では作家の生涯を20分ほどのビデオで紹介していた。ビデオの最終部ではトウェインの晩年に撮影された珍しい動画が流され、概ね、次のような言葉で締め括っていた。
「マーク・トウェインはほとんどの作家がなしえなかったことをなしえてこの世を去った。彼はimmortality(不朽の名声)を手にしたのだ」
(写真は上から、フロリダのトウェインの伯父の農家跡で進められている復元作業。中央の女性がキャレンさん。「外観」はほぼ完成。作家の生家が本来なら立っていた地。左端で説明しているのが、博物館館長で今回の研究会を仕切ったヘンリーさん)
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